勧誘される首だけ令嬢とキツネ娘っ
昼食を外で済ませがてら、アルフリーデが目の前の二人にとんでもない提案をしてきました。
「ねえ、二人はさ、ウチに対して怒りの感情がマックスなんだよね?」
「「……え?」」
食べる事に夢中になって、朝食の恨みをすっかり忘れていた二人は、急に話を振られた事とその内容に驚いたようでした。
「な、何なの、この魔女さんは?」
「吃驚仰天」
「アルフリーデはアルフリーデなりに悪い事をした……と思っているのですわ」
「「……反省だけなら魔女でもできるんだ……」」
「……ねえ、リファリス、この二人ぶっ飛ばしてもいい?」
「駄目に決まってるでしょう。主の面前で暴力沙汰だなんて以ての外ですわ」
「「「いやいや、リファリスはそれ言う権利は無いから」」」
「どうしてですの!?」
「「「撲殺も立派な暴力沙汰」」」
うっ!
それから昼食を食べ終わるまで会話が途切れ、食後のお茶を飲み終えた頃。
……カチャン
アルフリーデがティーカップを置くと同時に。
「で、どうするの?」
「「……何を?」」
無茶に会話を再開しました。
「アルフリーデに恨みは無いか、という話が途切れてましたわね」
「恨み……ああ、恨みね」
「恨み辛み妬み嫉み僻み、すなわち怨念。怨念すなわち呪い。呪いすなわち呪われアイテム」
「「「……は?」」」
「アルフリーデは私に対して、朝食を横取りするという最低最悪愚の骨頂の極みな行いをした。それは認めまする?」
「え、えっと、朝食を横取りしたのは間違い無いけど、最低最悪愚の骨頂の極みとまで言われる程かな?」
「認める?」
「えー、あー、うん。横取りは認める」
「なら、償うつもりはアルフリーデ?」
「は?」
「つもりはアルフリーデ?」
「え、えっと、有るよ」
「違う。有るんならアルフリーデ、無いんならナイチンゲール」
「ちょっと何なの、この子」
不思議さんですわ。
「アルフリーデ? ナイチンゲール?」
「何なのよ、この妙ちくりんな会話は……有るよ。アルフリーデ」
「アルフリーデ! アルフリーデ頂きました!」
……だいぶ苛ついてますわね。口の端がピクピクしてますわ。
「では償いとして、呪われアイテムありったけ出せ」
「………………はい?」
「リジーは呪剣士で呪われアイテムオタクなのよ」
「呪われアイテムオタク……これはまた、とんでもない変わり種だわね」
「変わり種、菜種またねヒマワリの種」
「だから何が言いたいのよ、この子!?」
「わたくしに聞かないで下さいまし!」
「ていうか、呪われアイテムくれ」
「…………まあ、持ってるけど」
「寄越せ」
「うわびっくりした!」
「寄越しなさい」
「な、何であげなきゃなんないのよ!?」
「贖罪」
「な、朝食食べただけじゃないの!?」
「食べ物の恨みは〝嘆きの山〟より高い」
「恨まれ度が半端ないんだけど!?」
リジーを怒らせたら、しつこいですわよ……。
「寄越せ寄越しなさいくれくれくれ」
「…………」
「くーれくれくれくれくれくれ」
「…………」
「よっこっせくーれ、よっこっせくーれ、よっこっせくーれ」
「…………」
「…………魔女は約束守らない超ケチンボ」
「っ!?」
「ペチャンコ魔女は超ケチンボ」
「ぺ、ペチャンコ言うなぁ!」
「くれないなら、お前の冠詞として〝ペチャンコ〟を流行させてやるっ」
「わ、分かったわよ! あげるわよ! あげればいいんでしょ」
リジーの勝ちです。
「はいはいはい、好きなの持ってけっ」
ドサドサドサーッ!
アルフリーデは収納魔術を開き、中から大量の禍々しい装備品を取り出しました。
「うおおおおおおお凄いいいっ」
「但し、一個だけよっ」
「えええええええ、ケチンボ」
「ケチンボじゃない! これ以上は譲れない!」
「むぅ…………仕方無い、二つで我慢する」
「一個だって言ってるのに……あーはいはい、二つどーぞっ!」
「やりぃ」
無表情で狂喜乱舞しながら、リジーは呪われアイテムを厳選し始めました。
「……はあ、疲れた。滅茶苦茶つっかれた」
「アルフリーデ、貴女、あの子を狙ってましたわね?」
痛いところを突かれたようで、アルフリーデは苦笑いしました。
「まあね。聖女の護衛は優秀だって話は伝え聞いてたから」
「まあ……優秀なのは認めますが……性格はアレですわよ?」
「うん。もういい。要らない」
欲しいと言われましても、あげるつもりは更々ありませんが。
「うーん……なら、貴女」
「ああ、やっと私? 延々とリジーとの漫才見せられるのかと思った」
相当面白かったようですわね。涙がまだ残ってますわよ。
「……まあいいわ。で、貴女はウチに何を望むの?」
「んー…………別に無い、かな。あ、違った。ナイチンゲール」
「な、無い? 無いんですの?」
「別に代償を求める程の怒りじゃ無いし、代償の代償が怖いし」
「ぐ……」
「どうせ最終的には『ウチに仕えなさい』ってなるんだろうし」
「ぐぐ……」
「私、リファリスから離れるつもりは毛頭無いから、そうさせる為の誘いになんか乗るつもりは更々無いよ」
「…………ウチ、リファリスに無いものを沢山持ってるよ?」
「へえ、何を?」
「お金」
ストレートに来ましたわね。まあ、確かにあまり持ち合わせてませんが。
「お金かあ。お金だったら、私は動かないよ」
「へえ?」
「そもそも実家が侯爵家だから、お金には困ってないし」
「うっわ、嫌みだわ」
まあどちらにせよ、お金で動かないのでしたらリブラは……。
「ならリファリスの超過激念写真上げよう」
「考えさせて下さい」
リブラ!?




