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レアなアレな撲殺魔っ

「あら、これ美味しいじゃないの。お代わりある?」

「ありますが、リブラとリジーの分ですわ」

「えー、ケチ臭いわね」

「ケチ臭いとか言わないで下さいまし! 朝になって突然押し掛けてきた、貴女が悪いんですわ!」


「……あ、あの~」

「何事なり?」


 わたくし達の騒ぐ声に目が覚めたのでしょう。リブラとリジーが眠たげに起きて来ました。


「あら、おはようございます。せっかくの休息日でしたのに、朝早く起こしてしまって申し訳ありませんわ」


「んな事はどうでもいいのよ。それより」

「その黒いの、誰?」


 その黒いのは、わたくしが用意した朝食のほとんどを平らげて、満足そうに爪楊枝を手にしていました。


「……え、ウチ?」

「「お前以外に誰が居るんだよ」」


 黒いのは立ち上がると、魔王教徒独特の礼をして。


「これは失礼しました。僕はアルフリーデと言う、しがない〝魔女〟でございます。以後、お見知り置きを」


「〝魔女〟……あんたが?」


 リブラは剣呑な気配を漂わせます。少し前まで敵だった相手が目の前に居るのですから、無理もありませんが。


「まじょって……間抜けな女の略?」


 リジーは天然気味に相手を煽ります。


「ま、間抜けな女で魔女……い、いや、それなら間女か……ぶくくっ」


 ピクピクッ


 アルフリーデの眉間に皺が寄ります。


「リファリス、この無礼者達は何なの?」


「貴女が食べ尽くした朝食を食べる予定だった方々です」

「「はあああっ!?」」


 わたくしの一言で完全に目が覚めた様子の二人は、更に剣呑な空気を漂わせます。


「な、何よ、剣を持ち出したりして」


 シャッ


 いつもの大剣を抜き放ったリブラは、立ち上がりかけていたアルフリーデに真正面から斬り掛かります。


 ギギィン!


「ちょっ! きゅ、急に斬りつけるって、どういう神経してんの」

「コロス」

「え、目がマジなんだけど!? そこの呪い塗れのおチビちゃん、止めなさいよ!」


 ギギィン!


「な、何でおチビちゃんまで斬りつけて」

「コロス」


「あら、両手に『闇球』を出して剣を止めるなんて、なかなか器用ですわね」


「か、感心してないで助けてよぉぉ!」



「バクバクバク」

「ムシャムシャムシャ」


 アルフリーデが自腹で屋台で奢る、という事で一旦は落ち着きました。


「うっわ、遠慮する気0だわね」

「当たり前でしょう。貴女だって、自分の食事を奪われたら腹が立つでしょう?」

「へ? 別に……そうなったら、それなりの代償を支払わせるだけだし」


 そうでしたわね。アルフリーデなら、そうしますわね。


「モグモグゴックン…………ごちそうさまでした(仮)」


「何なの、(仮)って」


「さ、さあ……」


 リジーの言う事は、たまに全く理解できません。


「……リファリス、ペチャンコ女、聞きたい事がありまくり」


 ぺ、ペチャンコ女……!


「コ、コロス……!」

「ま、待って下さいな……クスクス」

「リファリス笑った!? 笑ったね!?」


 リジーの仰った通り、アルフリーデのそれは……絶壁と言いますか大草原の小さなアレと言いますか。


「二人が昨日の夜にやってたの、野球じゃないの?」


「「…………はい?」」


 わたくしだけでは無く、アルフリーデも分からないようです。


「え、えっと……砂の丘ですの?」

「それは砂丘」

「自ら当たりに行く、消える、避ける」

「それは魔球」


 や、やきゅうとは?


「知らず知らずにやってたのなら、次元を超えた奇跡?」


「その、やきゅうとは何なんですの?」


「……なら、一応教えておく。野球とは」



 一通りの説明を受けたのち、その共通点の多さに驚かされました。


「つまり、ウチが投げる人……ピッチャーで」

「わたくしが打つ人、バッターですのね?」


「特にリファリスが使ってる聖女の杖、バットによく似てる」


 聖女の杖がやきゅうのバットに似ていたとは。打つ為の道具なのですから、撲殺し易いのも道理ですわね。


「異世界の競技と共通点か……これは流れ人の関与を疑うべきね」

「可能性はありますわね」


「それって、二人だけで勝手にやってる事じゃないの?」


「いえ、これは『聖戦』の一部ですわ」


「聖戦?」


「はい。古来より国々の争い事を調停する為の手段として用いられた対戦術式。それを『聖戦』と呼んでおりました」

「その競技内容を簡略化して、一対一の対戦方式に変えたのが、ウチらがやってた戦いだったの」

「一応『試合』という呼び名がありますわね」


「つまり、一部地域で活発に行われてる?」


「一部地域ではありませんわ!」

「全国的に有名なメジャー競技だよ!」


 リジーは首を傾げてから、リブラに視線を向ける。


「私も…………知らないわね」

「「ええええええええっ!?」」


「ハモった。聖女と魔女がハモった」

「……言われてみれば、超レアな光景よね」


 そ、それはどうでもいいんです。それよりっ。


「本当に知らないんですの!? わたくしの出身地ではメジャーでしたわよ!」

「ウチの故郷でもそうだった!」


「……リファリスと間女さんの出身地は何処?」


「名前も無い絶海の孤島ですわ」

「名前も無い高山の森林地帯」


「「滅茶苦茶隔絶してるじゃん!」」


「で、ですが、競技人口は多い筈ですわ!」

「そ、そうだよ! 競技人口こそが正義!」


「……出身地の人口は?」


「……ようやく三桁ですわ」

「…………同じく」


「「絶対競技人口少ないって」」


 そ、そんな……ま、まさか……!

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