真剣勝負な撲殺魔っ
「……主よ、どうかこの世界に光が溢れん事を……」
夜。
就寝する前に礼拝堂にて、本日最後のお祈りをしていますと。
……ギィィィ……
「…………誰ですか、わたくしのお祈りを妨げるのは」
「……ふっ」
シュッ
「なっ!?」
「久し振りだね、リ・ファ・リ・ス」
「あ……あ、貴女は……」
「忘れた訳じゃないだろ、僕と過ごした若かりし日々を」
「…………お、覚えてませんわ」
「へぇぇ……そうなんだ。その割には」
スルッ
「っ…………」
「身体は覚えているみたいだね、僕の事を」
ス……
「…………んぅ」
「思い出さないかい? 僕と修行に明け暮れた日々と……」
スス……
「…………っ」
「初めての、あの日を」
「し、知りませんわ」
「そうかい? なら」
キュッ
「んんんんんんっ!?」
「思い出させてあげるよ……ベッドの上でね」
「んんんぅぅぅ……ア、アルフリーデェェ」
「リファリス……」
メキャアッ
「何をブツブツと妄想を語ってらっしゃるのかしら」
「いったああああああああいっ!」
「もう一度言いますわ。教会の石段に座って、何をブツブツと仰っていらっしゃるのかしら?」
独り言の内容から察するに、わたくしと良からぬ間柄になる設定だったようですが。
「わたくしは貴女とそのような関係になった覚えは無くってよ?」
「いったああ……ぼ、僕を撲殺するつもりだったよね!?」
「もう既に、何回か撲殺しているでしょう?」
「……ああ、そうだった。そうだったね」
「それに何ですの? その気色悪い喋り方は。いつから一人称が『僕』になったのですか」
「だって、リファリスを【ぴー】するシチュエーションだから、僕っ子の方がいいかなっていったあああああいっ!」
「主の面前で厭らしい言葉を発しないで下さいな!」
「ごめんなさいごめんなさい! ウチが悪かったからあああっ!」
はい、宜しい。
「いたたた……い、いきなり関節を極めてくるなんて……」
「自業自得ですわ。で、何の用ですの、アルフリーデ?」
場を応接間へと移し、お茶を口にしながら向かい合います。
「……リファリス、ウチがここに来た理由、もう分かってるんでしょ?」
「ええ、勿論ですわ」
今回の戦争の後始末、ですわね。
「な、なら、ウチとの交さ……」
「いい加減にしませんと、口から杖を貫通させますわよ」
「……分かったわよ。その通り。魔王様はこれ以上の犠牲を望まれていないからね」
……どの口がそんな事を言うのでしょうか。
「戦いを挑んできたのはそちらでしてよ。なのに『これ以上の戦いは望まない』とは……」
「ああ、言い方を変えるよ。戦いを勝手に始めた魔王教上層部に、魔王様からお怒り気味の苦言が届いたんだ」
でしょうね。
「魔王がこんな無駄な戦いを望むとは思えませんもの」
「……リファリス、何度も言うけどさ、魔王様にはちゃんと敬称を付けてよね」
「あら、奥方様には許可を頂いてましてよ?」
「……だけど……不快」
「……分かりましたわ。貴女はこちらにちゃんと礼儀を尽くされてますものね」
「だよ。別にウチだって、その祭壇を足蹴にしたって構わないんだからね」
足蹴に……ねぇ。
「できる筈も無い事を仰らないで下さいな。貴女がそうなさる前に、貴女の頭が砕けるだけでしてよ?」
「……できるかできないかは、ウチ次第なんだよ。それを止められる筈が無いだろ、リファリス?」
「あら、随分と大言壮語しますわね」
「いやいや、単なる事実認定ってやつさ」
……わたくしは無言で杖を握り、アルフリーデは真っ黒な水晶玉を取り出します。
「あらあら、いきなり『闇球』ですの?」
「そう言うそちらも『光杖』かい?」
黒い水晶玉はアルフリーデの手から浮き上がり、やがて。
スィィィン……
細かな振動を発し始めます。
「…………行くよ、リファリス。『闇球』」
ズギュゥゥン!
水晶玉から黒い魔力弾が放たれます。
「っ……! 『光杖』!」
バギィィィン!
光を放った杖を振り回し、魔力弾を弾き飛ばしました。
「ふ、ふふふふっ! 相変わらずやるね、リファリス! 杖を振るスピードも、前より上がってるみたいだし」
「あは、あははっ! そういうアルフリーデも腕を上げましたわね! 魔力弾の切れ、以前より増してますわよ!」
そう言うとアルフリーデは、水晶玉から現れた魔力弾を手の平に乗せます。そ、その握りは……!
「ウチも本気を出すよ。完成した魔力弾・変化術式……受けきれるかな?」
魔力弾・変化術式……!
「なら行くよ、リファリス」
そう宣言するとスッと構え、片足を高々と天へ上げ。
ガバァ! ビシュ!
最上段から振り下ろされた手の平から、高速の魔力弾が投げ放たれました。
「速い……ならば!」
わたくしも杖を握り、両脚の間隔を広げ、魔力弾が来るのを迎え打ちます。
「…………」
片足をスッと上げ。
「それは……振り子式!?」
「そうですわ。貴女の縦に落ちる『闇球』が完成したのでしたら……わたくしの振り子式『光杖』も完成してましてよ!」
上げた足を下ろすと同時に、杖は虹色の軌跡を描き。
ガヅンッ
魔力弾を掠り。
パアアアア……
属性同士で中和されて霧散していきます。
「……まさか魔力弾・変化術式を捉えるとは……」
「わたくしも、振り子式で掠るだけとは思いませんでしたわ」
一瞬静けさが辺りを支配し。
「……今回も引き分けだね」
「またいずれ、決着を着けましょう」
そして、アルフリーデは闇へ消えていきました。
「……何あれ」
「野球に似てると思われ」
佐々木さんと全盛期のイチローさんの対決のイメージ。




