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一家と撲殺魔っ

 やれやれ、シスターはまた規格外な事をやってのけたようじゃの。まさか町全体に回復魔術をかけ、拡散しつつあった麻薬を全て無害にしてしまうとは……。

 それと諜報部隊長の意外な過去も明らかになったの。この様子じゃと、まだまだ脛に傷のある御仁が居りそうじゃの。

 さてさて、それよりもシスターが出掛けるようじゃ。一体何をやらかすのか、これまた見物じゃの……。



「……本気で行かれるつもりですか?」


「しつこいですわよ、部隊長様。わたくしが行かずして、誰が行きますの?」


「しかし、ただ麻薬が消えただけで、安全になった訳では……」


「分かっています。ただ、危険が伴うとしても、誰かわたくしに手を出せるような手練れが居ますの、この町に?」


「そ、それは……」


「それに万が一にもわたくしを襲ってくる不届き者が居たとしても、部隊長様とリジーさんが守って下さるのでしょう?」


 ニコニコと応えるわたくしを見て、部隊長様は苦笑するしかありませんでした。


「敵いませんな、聖女様には…………分かりました。我々が護衛として同行致しましょう。リジーもそれでいいな」

「うい」


 ありがとうございます、お二人共。



 町は表面上は平穏を保っているようです。

 が、裏では大騒ぎになっているのでしょう。バタバタと裏道を走り回っている方々が居ますね。


「一人二人質問してみましょう……そこの貴方」


 ちょうど裏道から飛び出してわたくしの目の前を横切ろうとしていた男性を呼び止めます。


「はあ? 何だってんだよ」

「お話をお聞きしても宜しいでしょうか?」

「お話って……げっ! シ、シスター!?」


 完全に逃げ腰になっている男性の後ろに、リジーさんが回り込みます。


「う、あ……」


「さて、お聞かせ願いますかしら?」


「な、何なんすか、シスター」


「ノーラ一家について、ですわ」


 それを聞いた途端、男性は明らかにホッとした様子でした。


「何だ、その事か……だったら良いぜ、何でも聞いてくんな」


「ありがとうございます。では、彼らのまとめ役が住んでいる場所を教えて下さいます?」


「アジトだよな? だったら二本先の通りにある一番大きな屋敷だ」


 二本先の通りは……確か旧貴族街ですわね。


「まだ残っていたのですね、貴族街の建物」


「ほとんど廃墟なんだけどよ、程度が良い屋敷なんかには誰かしら住み着いてるぜ」


 成る程。


「一度旧貴族街も大掃除しなくてはなりませんわね……」


 大掃除、という言葉を聞いて、男性はブルリと身体を震わせました。


「……貴方、わたくしに昔……」


「ひぇ!? も、もう人に言えねえような稼業はしてねえぜ!」


 やっぱり。以前に撲殺したお方でしたわ。


「今は何を為さってらっしゃるんですの?」


「で、出前だよ。ほら、二件先の食堂の」


 ああ、マキナ食堂の。


「……って、あああ! しまった、もう戻らないと親方に叱られる……!」


 ふふ、食堂の店主さん、強面ですからね。


「でしたら、わたくしに呼ばれて頼まれ事をしていた、と仰って下さいな。そうすればお咎めは無いですわよ」


「へ? は、はい。わかりやした。では失礼します」



 案の定、食堂の店主はカンカンじゃったようじゃが、シスターの言った事をそのまま伝えると、あっと言う間に怒気を霧散させ、一切咎められなかったそうじゃ。その店主も、昔シスターにお世話になったようじゃな。



「…………ん」


 リジーさんが止まり、鼻をひくつかせます。


「どうかしたか」


「……小麦粉の匂い。しかも、ドッサリと」


 小麦粉の匂いですか。


「リジーさん、その匂いを辿って下さいな」

「うい」


 リジーさんを先頭に、裏道を駆け抜けます。


「……あれ。あの大きな屋敷」


 リジーさんが示した屋敷は、先程の男性が教えてくれた屋敷と一致しています。


「間違いありませんわね。彼処がノーラ一家の本拠地ですわ」


「……何故小麦粉の匂いが?」


「わたくしが麻薬を無害化したからですわ」


「……え?」


「無害化したのですから、小麦粉になっているのです」


「……は、はい? シスター、よく分からないのですが」


「麻薬が無害化したのですから、小麦粉になるのは当たり前じゃありませんか」


「「…………はい?」」


 わたくし、何かおかしい事を言ってますでしょうか?


「麻薬と小麦粉は何も関係は…………いえ、もういいです。シスターがそう仰るのでしたら、そうなのでしょう」


 部隊長様は考えるのを放棄した様子で、屋敷内に入って行かれました。


「……リファリス、その事は後でゆっくり話そう」


「……? はい、構いませんが……?」


 わたくし、何か変な事を言ったでしょうか?



「シスター、中に居た者は全員捕らえました」


 わたくしとリジーが中に入った頃には、全員お縄になっていました。流石は諜報部隊を率いているお方です。


「ありがとうございます。わたくしから質問させて頂いても?」


「大丈夫です」


 部隊長様は入口近くまで下がられ、目を閉じて両手で耳を塞がれました。


「え?」

「リジーさんは宜しくて?」

「な、何が? 別にいいと思われ?」


 そうですか、なら……。


「な、何だよ。清廉なシスター様が、俺達みたいな汚れ者に何か用かよ」


「汚れ者……ですかぁ」


 わたくしの背後から西日が差し、顔を影で覆います。


「そうなんですかぁ…………汚れていらっしゃるんでしたら、綺麗にしないといけませんねぇぇぇ……町まで汚れてしまいますわよねぇぇぇ……」


「な……紅い三つの三日月…………ま、まさかお前は!?」


「汚れてしまったのでしたら、消毒しなくてはいけませんねぇぇぇ……うふ、うふふふ」


「あ……あ……」

「な、何でシスターが、連続殺人鬼の紅月と同じ特徴を……!」


「何故って、簡単ですわぁ。わたくしが、紅月だからですわよ……あはは、あはははは、あはははははははははは!」


「「ひ、ひぃぃ!」」


「ほぅら、いきますわよ! 天誅!」

 ゴギャッ!

「ぐぶえ!」

「あははは、天罰!」

 グジャッ!

「ごぶぇ!」

「滅殺! 必殺! あはははは、撲殺ぅ!」

 ビチャバチャパキャアン!

 ……ドチャ


「あはははは、一人消毒完了ですわ! まだ残りが五人も居ますわね……まだまだまだ消毒できますわああ! あはははははははははははは!」


「……前言撤回。やっぱりリファリス様とソックリだと思われ」


リファリス様、本日絶好調。

なので高評価・ブクマをどうか、どうかよろしくお願い致します。

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