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大使と撲殺魔っ

「ふー……呪いでも痒いのは勘弁」


 術式結界の影響から外れたリジーが、ため息混じりで呟きました。


「賭け事をなさるからですよ。しかも聖騎士という立場なのに」


「そ、それを言われると聖騎士辞めたくなる」


 辞めたくて辞められるものじゃありませんわよ。


「ううぅ……祝福以上に術式結界嫌い」


「自業自得ですわ。これに懲りて賭け事にあまり興じないように」


「うぅ、努力する」


 努力しなければならない程、賭け事に嵌まってしまったんですの?



 その答えは、二日後に表れました。


「痒っ! 痒い痒い痒い痒い痒いいいいいっ!」


 今度はリブラが術式結界の洗礼を受けたのです。


「……リブラ……賭け事に嵌まっていたのは貴女でしたのね」

「痒い痒いごめんなさいごめんなさい痒い痒い!」


 全身を描きむしって苦しむリブラに、白い目を向けざるを得ません。


「わたくしの弟子でありながら、休息日以外に賭け事を行い、あまつさえ『隷属否定』を忘れるなんて……!」


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいいいっ!」


 転がり回るリブラに右手を向け、更なる言葉をかけます。


「『遠慮は無用』」

「え……あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」


 痒みを倍増させられ、リブラは残像を残す勢いで転がります。


「……『痒みのその先へ』」

「あ゛あ、いだいいだいいだいいだいいだいいだいいいいっ!!」


 更に強化し、痒みは激痛へと変化します。


「悔い改めなさい」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!」



「……で、どういう理由で賭け事を?」


 涙と鼻水と涎を拭かせてから、正座で座らせます。


「う、うん…………実は……リファリスと」

「はい、何ですの?」

「リ、リファリス、目が怖いんだけど」

「でしょうね。先程の痒みをもう一度発現させたまま撲殺しても良いかと思ってますもの」

「止めて! マジで止めて!」


 わたくしの背後に控えているリジーはリブラに同情しているらしく、いつもなら格好のからかいチャンスであるのにも関わらず憐れみの視線を向けています。


「……そんなに辛いんですの、術式結界は」


「そりゃあああ、もぅぅぅ」

「辛いったらありゃしない」


 へえ……そんなんですの。


「ならば、術式結界を発動させ、もがき苦しんでいるところを撲殺すれば、今より罪人を追い込めるのでは無いでしょうか?」

「止めたげて!」

「想像するだけでライフ0よ!」


 あら、駄目でしょうか? 名案だと思いますが。



 夕ご飯まで正座の刑で許してあげました。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」


「リファリスー、リブラがメンタル崩壊してない?」

「していませんわ。そういう振りをしているだけです」

「そうなの?」

「そうですわ…………リブラ、背中を流してほしいので一緒にお風呂に」

「喜んでっ!」

「ほら」

「……我がライバルながら馬鹿と思われ……」


 ……ライバル……ですか。


「……今頃どうしてるのでしょうか……」


 ふと思い出します、わたくしのライバル。


「どうしてるって、誰が?」


「……わたくしの旧友ですわ。若かりし頃、魔術修行で競り合ったのです」


「へえ……同じ釜の飯を食べたってやつ?」


「そうですわね。正にそれが当てはまりますわ」


 みゅううん


「あら、ベアトリーチェまで。そんなに知りたいんですの?」


「「熊まで興味を持つんだ……」」


 そうですわね……話して差し上げてもいいですわね。


「わたくしは幼い頃から魔術の才能を見込まれ、師であるアカデミア先生に預けられたのです…………リジー、どうかしまして?」

「ア、アカデミアって……………………人でなし?」

「……突然わたくしの師匠を貶すとは良い度胸をしてますわね……」

「あ、違うならいい。同じ名前のクズを知ってるから、もしかしてと思って」


 それならば心配いりませんわ。


「先生はとっても良い方でしたわ…………たまにお風呂を覗く悪癖がありましたが」

「「いやいや、充分にクズだから」」

 みゅううん!


「……それはさて置き、その時に一緒に学んでいたのが、わたくしが唯一ライバルと認めた才女、アルフリーデです」


「アルフ……リーデ」

「アルフリーデって……」


「あら、知ってるんですの?」


「う、うん……今度魔国連合から来る」

「大使の名前がアルフリーデだったと思われ」


 あら。


「なら、魔国連合は〝魔女〟を送り込んできたのねええ……」



「……お初にお目にかかります、大司教猊下」


「魔王教を信仰する者が、聖心教の中枢に居る者に、敬意を払うのかね?」


「……これは手厳しい」


「当たり前だ。まさかお前が来るとはな……〝魔女〟」


「これも魔王様の思し召しです」


「ふ、魔王がそのような事を望むとは思えぬが」

「そうよ、あの人がそんな小細工する訳無いでしょうが」

「……枢機卿は黙っていなさい」


「これはこれは奥方様、ご機嫌麗しゅう」

「止めて頂戴。毎回毎回戦争の理由に使われてる身としては、奥方様だなんて敬われるだけで虫唾が走るわ」

「これは手厳しい」


「話を戻す。〝魔女〟よ、お前がこちらに居る間は監視を付けるぞ」


「監視……ですか」


「無論、我が半身だ」

「宜しくぅ、にゃは~」

「すいませんそれは勘弁マジ勘弁」

「あはは、まーだ嫌われちゃってるな、にゃは」


「ふむ。ならば他の者を望むか?」


「そうですねぇ…………久し振りに戯れてみたいし……聖女様でお願いできませんか?」

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