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『隷属否定』と撲殺魔っ

新章、ついにライバル登場。

 ワシのような老いぼれにまで無理をさせおった戦争も無事に終わり、再び平和な日々がやって来たのじゃ。

 あれからワシが代表として魔国連合と講和会議を行い、正式にこちらが勝利した事が認められた。魔国連合側には不利な条件が突きつけられ、それを飲まざるを得なかった代表団の表情ときたら…………プププ、笑えるわい。

 まあ、それはさて置き、この講和会議の席で幾つか決まった事がある。

 その一つが魔国連合と聖心教連盟(こちら側じゃ)との間で国交を開きお互い大使を派遣する事での、こちらからは戦争の際に諜報活動で大活躍じゃったジョウ殿が選ばれ、夫妻共々魔国連合へと旅立った。

 そして代わりに魔国連合側から受け入れる事になったのじゃが………………それが今回の事件の発端となるのじゃよ。シスターは本当に安息な日々とは無縁じゃのう……。



 カーン……カーン……


 厳かな鐘の音が鳴り響く初夏の午後、わたくしはリブラと一時の休息を楽しんでいました。


「あら、美味しいお茶ですわね」

「そう、良かった。これ、ラブリに頼んで取り寄せてもらったんだ」


 ラ、ラブリさんに?


「…………毒、入ってませんわよね?」

「入ってないわよ!? リファリス、それは流石に失礼じゃない!?」


 い、いえ、ラブリさんのお姉様大好きっぷりを見せつけられますと、わたくしを憎しみの対象としていそうで、つい。


「怪しい部分はもう取り除いてあるよ」

「もう対処済みですの!?」

「案の定入ってたから。致死性はあまり無かったけど」

「あまりとは言っても、一応致死性の毒だったのですね……」


 ラブリさん、シスコンを拗らせ過ぎて、妙な方へ向かっている気がしてなりません。


「あー大丈夫大丈夫。ラブリは気に入った人には、気付かせられる範囲でしか毒を盛らないから」

「……毒を混入する時点で、気に入った入らない以前の問題だと思うのですが……」


 カーン……カーン……


「…………そう言えばリブラ、今週は貴女が鐘を鳴らす番じゃありませんでしたか?」


 弟子であるリブラ、護衛であるリジー、そしてベアトリーチェが一週間毎に朝昼晩の鐘の当番を交代しているのです。


「うん。今回は二週連続でリジーがやってくれてるの」


「リジーが?」


「そ。だから問題無いのよ」


「……何があったんですの?」


「え? 何がって?」


「あの面倒くさがりのリジーが、二週も連続で鐘撞きをするなんて、普通ではありませんわ。ですから何があったのか、と聞いているんですの」


「あー、そういう事か。カードゲームでの負けが込んできただけよ」


「あら、そうでしたの。負けが込んで……………………はい?」


「ん、何?」


「負けが込んでって……貴女、リジーと賭け事をしてるんですの!?」


「賭け事って言っても、お金を賭けない安全安心なヤツよ」


「そういう問題ではありませんわ! 貴女、主の教えを何だと思ってるんですの!」


「何だって……別に良いじゃない、ゲームなんだし」


「…………全部読むように言った、福音書の第一巻の三章には何と書いてありましたか?」


「へ? 福音書?」


「主は仰いました。『賭け事によって、人を動かす動機とする事無かれ』と」


「………………あー……書いてあったような、無かったような」


「賭け事によって人の行動に制限を設けるのは、奴隷を生み出す第一歩ですから主は厳重に禁じられているのですよ?」


 過去に似た事例があって、それが切っ掛けでこの世界に爆発的に奴隷の習慣が広まったという経緯があり、聖心教では厳重に賭け事を制限しているのです。


「あ、そうだったそうだった。ちゃんと読んだんだけど忘れてたわ、テヘペロ」


「テヘペロじゃありません! 貴女、主に仕える者でありながら……!」


「ちゃ、ちゃんと休息日にしかやってないよっ」


「…………本当ですの?」


「本当だって。ちゃんと『隷属否定』もしてるから」


「…………ならば宜しいですわ。今回は大目に見ましょう。ですが」

「分かってる分かってる。今度からは奉仕を賭の対象にしないよ」


 主は余りに厳しく制限しては逆効果だと考えられ、休息日に限り解禁し、終わった時に『隷属否定』の誓いを口にする事を義務付けられたのです。


「でもさ、『隷属否定』って本当に効果があるのかな?」


「どうしてですの?」


「だって、あれって『私は私以外の人々を下に見ません』って呟くだけじゃない。一種のおまじないだよね?」


「ああ、昔は(・・)そうでしたわね」


「……昔は?」


「はい。あまりにも形骸化していましたから、聖心教の信仰地域にはある術式結界が張られましたの」


「術式……結界?」


「はい。賭け事を行った後に『隷属否定』を言わなかった場合、あるペナルティが課せられます」


「ペナルティって……」


「どうなるかは個人差がありますが」

「痒い痒い痒い痒い痒い痒い痒いいいいいっ!」

 どんがらがっしゃああん! ごろごろごろごろ……

「……全身に激しい痒みを伴ったりします……リジーは言わなかったのですね」

「……そう言えば何も言ってなかったわ」


 相変わらず、凄い効き目ですわね。


「流石だねー、リファリス」


「はい?」


「その術式結界、リファリスが張ったんでしょ?」


「違いますわ。この術式結界は〝魔女〟が張ったのです」


「魔女? 魔女って……まさか魔王教の魔女!?」


「ええ、その魔女です」

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