模擬戦の撲殺魔っ
「う、ううむ……武装解除も完璧じゃの」
「抵抗する者は……皆無ですね」
ライオット公爵と副団長が到着したのは、わたくし達が砦を攻略してから一週間後でした。
くぅぅぅん
きゅーん
「ま、周りを狼に取り囲まれておるのが、少々心臓に悪いのう」
「し、しかし、何故に血塗れな見た目なのに、可愛いらしさが際立っているのでしょうか」
「ライオット公爵、副団長、ご苦労様です」
「おお、聖女殿…………聖女殿?」
「だ、団長!? な、何のおつもりですか!?」
何のおつもりと言われましても……。
「何か問題ありまして?」
「い、いや、聖女殿、流石に聖職者がその格好は……」
「そ、そこまで肌を晒すのは如何なものかと……」
そう言えばわたくし、法衣が血塗れになってしまって、止むを得ず毛皮の鎧を着てましたわね。
「……そんなに刺激的ですの?」
「聖女殿、それは巷で話題になっておるビキニアーマーというものに似ておっての」
「す、素足、お腹、それにむむむむ胸の谷間まで…………しゅ、主よ、どうかお許し下さいぃ!」
「リファリス、だから言ったでしょ……ほら、せめてマントくらい巻いておきなさい」
そうリブラに言われ、渡されたマントを身に纏います。
「むう、残念……では無く、リブラ侯爵夫人、ナイスじゃ」
「はぁぁぁ……団長の、いえ聖女様のあのような御姿……眼福、いや、罪深い……」
……公爵様はともかく、副団長は何を仰ってますの?
「それより公爵様、今後はどうなさいますの?」
「む? あ、そ、そうじゃな……やはりこの砦は魔国連合に対する楔として、占領しておくのが得策じゃな」
「あら、楔だけですの? このまま首都まで攻め込んで、支配者を一族郎党全て撲殺の刑に」
「せせせ聖女殿? 何を言っておるか、分かっておるか?」
「団長が好戦的になってしまわれた?」
「うーん、ちょっと血に酔ってるかもしれませんね」
「リブラ侯爵夫人、血に酔うとは?」
「そのままの意味です。リファリスは気持ち良く撲殺できると、たまにこんな精神状態になりますから」
「……つまり、どうなるのじゃ?」
「色々な意味でタガが外れます」
「「……な、成る程……」」
……? 何を納得なさっているのでしょうか。
「回復させるには、どのようにすれば?」
「……普段は二三日で元に戻るのですが……あれだけの撲殺数ですから……」
「ふむ……ならば、少し発散させれば良いのではないかの?」
「発散……ですか?」
「リブラ侯爵夫人、ちぃと聖女殿と手合わせしてやってくれ」
「手合わせ、ですか?」
「うむ。騎士の中にも稀に居るのじゃよ、聖女殿と似たような症状を抱えておる者がな」
「確かに。自由騎士団内にも居ます」
「そ、それで、どうやって発散するんですか?」
「模擬戦で発散させるのじゃ。血の匂いのせぬ戦いを行ううちに、日常に戻っていくようでの」
「我々も同じようにしています。これで間違い無く回復していますね」
「成る程……私もリファリスとの模擬戦なら望むところですし…………お引き受けしましょう」
「……何故わたくしはリブラに刃を向けられてますの?」
「だから、模擬戦だって、模擬戦。さっきあんたも同意したじゃない」
ええ、同意しましたわ。
「ですが何故リブラは真剣を握ってますの? 模擬戦ならば木刀か、刃を潰した訓練用の剣でしょう?」
「……リファリス相手にするのに、訓練気分じゃ命が保たないって」
「……そうですの?」
公爵様と副団長が激しく頷きました。そこまで肯定なさる程、わたくしは危険なのでしょうか?
「じゃあ、リファリス……行くよ」
スタン……ギィィン!
「く……!」
ど、どうにか、止められましたが……!
「ま、まさかリブラ侯爵夫人の一撃目を凌ぐとはの」
「〝一撃必滅〟の異名を持つ侯爵夫人の初撃を……!」
「リ、リブラ、貴女は意外と有名人ですのね……!」
ギャリリ……
「意外とじゃ無く、かなりの有名人なんだけど……ね!」
ズドムッ!
ぐはっ!?
ザザザザザ……
「けほ……鍔迫り合いからの膝蹴り、効きましたわ」
「リファリス、これで一本だね」
ええ、ええ。見事にやられましたわ。
「負けを認めますわ。わたくしの完敗です……やはり戦いが本職であるリブラには敵いませんわね」
「いやいや、一撃目防いだだけでも殊勲ものよ。初見で防げるような甘いもんじゃないからね?」
そうなの……ですね。公爵様と副団長が頷いて肯定なさってます。
「リブラ、因みになのですが」
スタン……ギィィン!
「な……!?」
「斬りつけるのでは無く、このように突きを繰り出した方が、もっと速さを活かせるのではなくて?」
杖の先をギリギリで受けきったリブラは、ドッと汗を流して苦笑いしました。
「勿論、突きが基本だよ。だけど今回は素人のリファリスが相手だったから、わざと斬りつけたの」
つまり、手加減されたのですね。
「ふふ、わたくし、まだまだリブラには及びませんわね」
「……一回見ただけで再現してみせたクセに、よく言うわ」
「何か仰って?」
「いーえ、何にも」
「……間に合わなかったね。獅子心公にリブラ侯爵夫人まで出陣されちゃあ、もうどうにもならない」
「それにしても……あのビキニアーマーの戦士、恐ろしい腕前ですなあ」
「毛先が赤みがかった銀髪に、憎ったらしいの巨乳…………あれが聖心教が誇る聖女ね」
「どうなさいますか、魔女様」
「……今回は引き上げましょう…………聖女の心臓を頂くのは、また次回に」
リブラ、何気に強い。
それを真似できるリファリスはもっと強い。
そして、魔女は……?




