極悪非道な撲殺魔っ
……ドドドドドドドド……
「ん……何だ、あれは」
「どうかしたか?」
「あ、いや、腐食砂漠の方から、何やら地響きと砂煙が……」
……ドドドドドドドドドド……
「お、おい、あれは……もしかしたら邪教徒共じゃないか!?」
「ハハハハ、そんな馬鹿な。邪教徒が腐食砂漠を越えられる筈が……」
ドドドドドドドドドドドド!
「いや、違う! あれは邪教徒じゃねえ!」
「な、だから言っただろ?」
「獣の大群だ!」
「そうそう、獣の大群…………はあ!?」
ドドドドドドッ!
ギャッギャッ!
キシャアアアッ!
グルルル!
「は、早い……敵襲! 敵襲ーー!」
ギャギャッ!
ガブゥ!
「ぎゃあっ」
キキキキィ!
ザクッ! グシュ!
「あがああっ」
「……斬り込み隊は上手くやったようですわね。リブラの作戦通りですわ」
「い、いや、流石に斬り込み隊とは言えないんじゃ……」
「そうですわね。なら、噛み付き隊?」
「全部そうなっちゃうんじゃない?」
リブラの冷静な指摘に納得です。流石は軍を指揮していただけはありますわ。
「軍の指揮は関係無いんじゃない? それに群れの指揮は経験無いし」
お猿さんの群れが門を駆け上り、敵の兵士さん達を屠っていきます。
「リファリス、内側から開けさせる事はできる?」
「無論ですわ。お猿さん達はとっても賢くてよ」
わたくしがリブラの言葉をそのまま伝えると、大熊……いえ、ベアトリーチェが翻訳して伝えてくれます。
ウキキ!
ボスを務めるお猿さんが片手を挙げて答え、周りに指示を出します。
ウキキキキッ
ガタガタッ
ゴトン……ギィィ
「う、嘘……ほ、本当に開いた……」
「さあ、あとは攻め込むだけですわ。思う存分蹂躙しなさい!」
グオオッ!
わたくしの近くに控えていたベアトリーチェが一吠えし、砦に駆け込みます。
「あ、でもリファリス、砦に立ってた旗印、魔国連合の精鋭部隊のだったよ?」
「精鋭部隊? つまり敵方の最強部隊がいらっしゃるのですね?」
「まあ、精鋭部隊だからそうなるわね」
「でしたら……ベアトリーチェだけに任せる訳には参りませんわね」
わたくしも征きましょう
「え、ちょっと待って。リファリス自ら乗り込む気じゃ」
「……それ以外に手がありますの?」
「え…………」
「できる限り犠牲を伴わないようにするには、わたくしが乗り込むのが最良の手では無くて?」
「犠牲を伴わないようにって…………まさか、リファリスが参戦した理由って」
あら、リブラなら気付いてらっしゃると思っていたのですが。
「無論、騎士団の皆様に犠牲者が出ないようにする為ですわ」
「ぎ、犠牲者がって……戦争って犠牲ありきじゃないの」
そうですわね……普通は。
「ですがわたくし、耐えられませんの」
「え?」
「わたくしが庇護すべき方々が命を落とされる事が、我慢できませんの」
「…………」
「だから、わたくし自身が戦うのですわ」
「…………はぁぁ……分かったわよ、私も行く」
「あら、無理に付き合って下さらなくても宜しくってよ」
「何言ってんのよ。リファリスが騎士団を守りたいって言うんなら、私はリファリスを守りたい」
……!
「……なら、リブラはわたくしが守らなくてはなりませんわね」
「だったら、リファリスが守る必要が無いくらい、敵を蹂躙するしか無いわね」
そう言って微笑むリブラは、今まで見たことが無いくらい、獰猛な笑みを浮かべていました。
「ライオット公爵!」
「どうじゃった?」
「腐食砂漠の砦、陥落したようです! 現在、煙が上がっています!」
何と、本当にやりよったか!
「公爵、あの砦が陥ちたのならば」
「うむ、魔国連合には強烈な楔となるじゃろうな…………リブラ侯爵夫人に伝令を。すぐに部隊を派遣する故、そのまま砦を死守されたし……とな」
「は、直ちに!」
「……だそうよ」
伝書鳩によって知らされたのは、この砦を援軍が来るまで守り抜くように、という指令でした。
「あら、魔国連合を滅ぼせ、ではありませんの?」
「流石にそれは……………………ま、待って。まさか、本気だった?」
「やれ、と言われればやりますわよ。魔国連合が滅亡すれば、自由騎士団自治領への脅威は薄れますもの」
「本気だったわ! リファリスったらマジだったわあ!」
何故か頭を抱えて、首をブンブン振るリブラ。疲れているのでしょうか?
「それよりも防衛戦について考えなくてはいけませんわね。リブラでしたらどうなさいます?」
「え……あ、おほん! …………そ、そうね。防衛するんだったら、砦に籠もって援軍を待つか、軍勢に余裕があるんなら打って出るか」
「籠もるとなると、兵糧が必要ですわね。しかし今回は……」
「大半が獣だし、兵糧なんて準備してある筈は無いか」
「いえ、必要ありませんわ。だって、食料には事欠きませんもの」
「え、待って、まさか」
「肉食の方は草食の方を食べて頂ければ」
「ちょちょちょ待って待って! それってリファリスについて来てきてくれた獣達の事だよね!?」
「そうですわ」
「あ、ある意味共食いだよ、それ!?」
「あら、肉食の方が草食の方を食するのは、自然の摂理ですわよ?」
「草食動物と書いて兵糧って読む訳!? 聖女の名が泣くわよ!?」
「あら、何の問題もありませんわ。だって、食べられて亡くなられても、ちゃんと生き返らせますもの」
「い、生き返らせて、再び食べさせるの!?」
「生きてさえいれば、何の問題もありませんわ」
「…………ゾンビアタックより最悪だ」
ゾンビアタックならぬ、ゾンビイート。




