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戦況関係無しの撲殺魔っ

 シスターがどうにか食いつないでおる頃、不利じゃった戦況も少しずつ変化しておった。



「ウフフフフ、やっと到着した」

「リブラ様、腕が鳴りますね」

「……ちょっと、気を付けてよ。壁に耳あり、障子に目ありって言うでしょ」

「あ、これは失礼しました。今はラブリ様と呼ぶべきでしたね」

「そういう事。どちらにしても、戦中は名前では呼ばないように」

「はっ、お館様」


 お館様もどうなんだろう……まあいいや。


「……まだ聖女様は?」

「到着されてないようです」

「……そう……間に合わなかったか」


 リファリス……無事だとは思うけど。


「…………リブラ侯爵軍、参る。聖女様の分を残す必要は無い、魔王教の狂信者共を南大陸から一人残さず消し去れ」

「「「はっ!」」」


 愛用の剣を高々と天に向けてから……。


「……我に続けええええええっ!!」


 馬の腹を蹴り、飛び出す。


「お館様に遅れるなああ!」

「突き進めえええっ!」

「「「うおおおおおおおっ!!」」」



 精鋭のリブラ侯爵軍の到着により、敵の主力は潰走。今までの不利を一撃で跳ね返し。



「リブラ侯爵軍は相変わらずですなぁ」

「我々も負けていられませんぞ」


「うむ……団長が到着してからと思っていたが……遅れていらっしゃる以上、仕方無いな……全軍、突撃準備!」


「「「おうっ!」」」


「団長が遅れている故、副団長の私が指揮を執る。リブラ侯爵軍ばかりに活躍されては、団長に合わせる顔が無い。最初から飛ばして行くぞ…………行けええええええっ!」

「「「うおおおおおおおおおっ!!」」」



 自由騎士団(フリーダン)の怒涛の追撃も重なり、魔王教の連中はついに魔国連合の近くまで押し戻されたのじゃ。

 さて、そのような変化が続く中、肝心なシスターはと言うと。



「あら、この蝙蝠もいけますわね……ムシャムシャ、蜥蜴も骨まで食べられて……ムシャムシャ」



 ……ますます逞しくなっておるの。

 それはさて置き、ワシも敗走しておった軍を再編成し、リブラ侯爵軍やフリーダンの後を追っておった。


「あ、獅子心公(ライオンハート)だ!」

「ライオット様だぞ!」


 魔国連合の国境近くでついに追いつき、両軍の本陣へと挨拶に向かう。


「失礼するぞ」

「あ、これはこれはライオット公爵様」


 最初にワシに気付いたのは、フリーダンの副団長じゃった。生真面目で有能な男での、団長になっておってもおかしくないくらいじゃ。まあ、前団長があんなじゃったから、ここまで成長したのじゃろうが。


「……初めまして、ライオット公爵様。私、先日姉の急逝によってリブラ侯爵夫人を継ぎました、ラブリ・リブラと申します。以後お見知り置きを」


 いやいや、首だけ令嬢本人じゃろが。


「……うむ、話は聞いておる。じゃが前侯爵夫人に負けぬ武勇と聞き及んでおるぞ」

「いえ、まだまだ若輩者です。姉の足元にも及びませぬ」


 自分で自分に敵わぬと言わねばならぬ経験は、なかなかにできぬものじゃぞ。


「いやいや、お主のお陰でワシは軍を立て直せたのじゃ。若輩者などと謙遜する必要は無かろうて」

「そうですぞ、リブラ侯爵夫人。貴殿の采配、真に見事でした。姉君も喜んでおられましょう」

「……ありがとうございます」


 口の端がピクピクしておるの。必死に笑いを堪えておるようじゃ。


「それより戦況じゃの。狂信者共を押し返したは良いが……問題はここからじゃ」


 異教徒の国・魔国連合が南大陸に存在できておる理由が、ワシらが攻め倦ねておる理由でもあるのじゃよ。


「……厄介じゃの、腐食砂漠は」


 魔国連合の国境に広がる岩の砂漠。ここには常に毒ガスを噴き出す谷が広がっておっての、それが原因で先に進めぬのじゃ。


「……腐食砂漠を避けようにも、険しい天魔山脈があるし……」


 腐食砂漠以上に厄介なのが、魔国連合がある半島を閉じるように広がる天魔山脈。その険しさは中央山地に勝るとも劣らないと言われておる。


「海から行こうにも、泥の海と嵐の海では……」


 つまり、攻め入る手段が無い。毎回追い詰めるのじゃが、この天然の要堺に行く手を阻まれておるのじゃ。


「全く、狂信者共は越えられるのに、ワシらには越えられないのは何故なんじゃろうな」


 それが一番の謎なのじゃ。


「しかし、死ぬと分かっていて、無駄に部下を向かわせるのは……」

「分かっておる。こうなってしまった以上、しばらく様子を見てから対応を検討するしかないの」


 とは言え、狂信者共が手を出して来ぬ限り、撤退するしか無いのじゃがの。


「……あの、ライオット公爵様」

「む? 何じゃな、首だけ令……ではなくリブラ侯爵夫人」

「く、首だけ?」

「あ、いや、何でも無いの、うん」


 危ない危ない、ついいつもの呼び名でよんでしもうた。


「……いえ」


 首だけ令嬢も冷や汗をかいておる。バレたら大変じゃからの……悪い事をしてしもうたわい。


「で、何じゃったの?」


「え、あ、はい。実は聖女様と作戦を練っていたのです」


 シスターと作戦を?


「どのような作戦じゃな?」


「やる事は至極簡単です。聖女様が腐食砂漠の毒を浄化し、その後を全軍続く、というものです」


 ふむ、過去にも何度か提案された作戦じゃな。


「しかし魔術でどうにかなる毒の量では無いぞ」

「大丈夫です、リファ……聖女様なら」


 ふむ。確かにシスターは規格外じゃからの。


「しかしの、その聖女殿が居らんのでは、どうしようもならん」

「はい、全くその通りで……」



「……くしっ! あら、誰かわたくしの噂を?」


 ガルルル……

 グルルル……


「静かになさい。もうすぐですから、大人しくなさいませ」

主人公は遅く到着するのが宿命。

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