遭難した撲殺魔っ
ガシャガシャアン!
「リ、リジー?」
少し遅れて現れたのは、純白の鎧と。
ヒラヒラ……
純白の女性の下着と。
…………パサッ
リジーのアイテムバッグ。
……以上でした。
その頃、『遠出の回廊』入口付近では。
「きゃああああああああああああっ!!!!」
「せ、聖騎士殿!?」
素っ裸になったキツネ娘が、顔を真っ赤に染めて聖地の方角へ走っていったそうじゃ。一体何があったんじゃろうな。
「この白い鎧は……リジーの黒い鎧では?」
禍々しい呪いが込められていた漆黒の鎧は、キラキラと陽の光を反射していますが、間違い無くリジーの鎧です。
「それに、この真っ白な下着……」
このサイズは……リジーの黒く呪われた下着同じ。
「そして、この袋。間違い無くリジーのアイテムバッグですわね」
試しに手を入れてみますが、やはり弾かれます。
「……ここまで来れば間違いありません。リジーは『遠出の回廊』入口に取り残され、鎧と下着と袋のみ、ここへ転移されたのですね」
その頃、聖リファリス礼拝堂では。
「……恥ずかしい寒い恥ずかしい寒い恥ずかしい寒い……」
「……リジーさん……一体何をしたら、そうなるんですの?」
無事に首だけ令嬢の片割れに保護されたようじゃな。
「……そういう事ですか」
二三分熟考して導き出した答えは、至極単純なものでした。
「そう言えば『遠出の回廊』は、聖属性の術式でしたわね」
魔の者が侵入してこれないよう、聖属性を付与されていたのでした。
つまり、呪剣士のリジーは魔の者として弾かれてしまったのです。
「そして、着用していた呪具は浄化されて……」
元々無属性だった袋と共に、ここへ送られてきたのでしょう。
「何より、わたくしが出た場所は……〝嘆きの山〟の近くですわね」
南大陸の最高峰ローレライ、通称〝嘆きの山〟が目の前にあります。つまり、ここは中央山地の真ん中辺り。
「……『遠出の回廊』は充填された魔力によって発動します。しかし今回の場合は、その大半がリジーの呪具の浄化に消費されてしまったようです……」
つまり、わたくしを回廊の出口まで飛ばす魔力が無くなってしまい。
「……こんな中途半端な位置に出てしまったのですわね……」
…………わたくし、ここから一人で、中央山地を越えなければなりませんの?
「……助けが来るのを待ちましょう。それまでジッとしていれば……」
ヒュウウ……
「~っ……さ、寒いですわ。薄着ですから仕方ありませんが」
何か防寒具があれば……あ、そうですわ。
「リジーに預けた荷物の中に、防寒具も用意しておいて…………あ」
わたくしの荷物、アイテムバッグの中ですわ。しかも、リジーにしか手が入れられません。
「……つ、つまり、食料も……」
…………今現在、わたくしが持っているものは、中身を取り出せないリジーのアイテムバッグと、聖女の杖のみ。
「…………主よ、これは試練なのですか!? わたくしに何を為せと仰りたいのですか!?」
……い、今は祈っても仕方ありませんね……現実を見ましょう。
「わたくし、どう考えても、遭難してますわね」
その頃、聖リファリス礼拝堂では。
「せ、聖女様お一人で行かれてしまったんですか!?」
「た、多分」
「つまり、お姉様と聖女様、二人が交わる可能性が出てきてしまったと!?」
「は、はい」
「それを阻止する為に貴女を聖騎士に推したんですのよ!」
「……面目ない」
未だに事の深刻さに気付いておらなんだ。
「た、立ち止まっていてはいけませんわ。何処かで暖を取らなければ」
太陽の位置で方角と大体の時間が分かります。
「……北東に向かえばいいのですわね……でしたら、あっちです」
鎧は持って行っても邪魔になるだけですから、このままにしていきます。リジーのアイテムバッグと下着は……一応持って行きましょう。
「……寒さを凌げるような洞窟な何かがあれば……」
とはいえ、洞窟なんてそうそうありません。
「……確か、教会の書物の中に、絶望的な遭難から生還された方の体験記がありましたわね……」
必死に内容を思い出します。
「……まずは水と食料ですわ。水は『聖水』で幾らでも出せます」
聖属性を帯びた水を呼び出す魔術が、こんな形で役に立つとは思いませんでした。
「後は食料……流石に中央山地には植物は乏しいですわね」
高山ですから、それは仕方ありませんが。
「そうなりますと……」
グルルル……
ウウウウ……
あら、この音は。
グルルル……ガウウ!
「狼ですわね」
わたくしがあれこれ考えている間に回り込まれたようです。すっかり取り囲まれていました。
「……仕方ありません……わたくしもここで死ぬ訳には参りません」
杖を握り、狼に備えます。
ガルルル!
一匹跳び掛かってきました!
「生きる為の殺生をお許し下さい! 天誅!」
バガッ! ギャン!
一撃で仕留めました。これで食料は確保です。
ガルルル……
グルルル……
仲間を殺られたせいか、殺気が膨れ上がります。
「……それにしても……狼を撲殺する感触も……悪くありませんわねえええ」
ビクッ!
「それに、これだけの数を狩れれば……当分の間、食料には困りませんわねえええ」
ビクッ! ビクビク!
「うふふふ……あは、あははは、あははははははははは! さあ、かかってらっしゃいな、哀れな狼さん達ぃぃぃ!」
ギャイーン!
ギャンギャンギャン!
「逃がしませんわよ! 聖女の戒『茨』」
ピシュル!
シュルルル!
ギャンギャンギャン!
「あっははははは! 始めますわよ! そおれ、天誅! 天罰! 滅殺抹殺撲殺!」
……山地の生態系、大丈夫かの?




