聖女様の閑話っ
「お姉様!」
……また来ましたわね……。
「今夜はご予定はお有りですか?」
「有ります。貴女様が来られる限り、無限に予定ができます」
「ああん、そんなご無体な…………だけどそんなお姉様が素敵!」
……頭が痛いですわ……。
「あれ、また来てるんだ、マリーゴールド王女殿下」
わたくしが頭を抱えていると、リブラが戻ってきました。
「……あら、元リブラ侯爵夫人じゃありませんか。何用ですか?」
「何用ですかって言われても……私はここに住んでるんだから、居て当然でしょ」
それを聞いた王女は、頬を膨らませてわたくしを背後から抱き締めてきます。
「んまあ!? 聞きましたか、お姉様! この女、第一王女で次期国王である私に向かって、あるまじき態度ですわ!」
「それでしたら、国王陛下直々に御裁可がありましてよ」
「え、お父様が?」
「はい。娘が迷惑をかけるだろうから、ぞんざいな扱いをしてもらって一向に構わない。場合によっては撲殺も許可する、との事ですわ」
「ぞんざいは扱いはまだ良くても、撲殺許可って親としてどうなんでしょうか!?」
「仕方無いんじゃない? 日頃の行いってヤツよ」
「元リブラ侯爵夫人! 貴女にまでぞんざいに扱われる謂われはありません!」
「陛下の御裁可は、一般人にまで及ぶって聞いたけど」
「な……ほ、本当ですか!?」
「書状にはそう記載されてましたわね。はい、見てみます?」
ひったくるようにわたくしから奪い、穴が空く程に書状に目を通し……。
ビリィ!
「こ、こんなの私は認めない! 認めないんだからあああ!」
ビリビリビリィ! グシャ!
あらあら、陛下からの書状をビリビリに破いてしまいました。
「こ、これで証拠は隠滅しました。私がぞんざいに扱われる根拠は消えましたよ!」
勝ち誇った表情を浮かべる殿下に、リブラが水を差します。
「殿下、その書状、一枚だけじゃないよ」
「え?」
「私はリファリスから見せてもらったんじゃなくて、ラブリが持ってるのを読ませてもらったんだから」
「ラブリ……貴女の双子の妹ですのね!?」
「ええ。どっかの誰かさん達と違って、姉妹の仲は良好だから」
殿下は双子の妹とは、会えば殺し合う仲ですわね。
「い、妹さん……つまり現リブラ侯爵夫人ですね!?」
「そ、そうだけど……て、殿下!? どこ行くのよ、殿下ー?」
「まさかとは思うけど、私ん家に突したんじゃないわよね」
「あの状況ですから、それ以外にあり得ませんわ」
殿下の痕跡を魔術で探りますと、どうやら貴族街に向かったようです。
「ラブリさんはいつまで聖地別邸に居る予定ですの?」
「知らないわよ。あの子、何故か政治機能を全てこっちに移しちゃったし」
あらあら。相変わらずお姉様大好きっ娘なんですわね。
「全く、殿下といい、ラブリといい、双子にはろくなのが居ないのかなっ」
「……貴女を含めて、ですの?」
「何で私が対象なのよっ」
「……わたくしの寝床に侵入したり、わたくしと一緒に入浴したがったり、わたくしが着替えてると必ず侵入してきたり」
「はいごめんなさい私が悪うございましたああっ!」
蛙の子は蛙、とは言いますが、蛙の妹も蛙なのでしょうか? あ、これは褒め言葉にはなりませんわね。
ガチャアアン!
「っ!? ま、窓が割られて……」
「まさか……殿下ですの?」
「た、確かにラブリには殿下を中に入れるなって伝えたけどっ」
王族とも在ろう御方が、窓を叩き割って不法侵入ですの!?
「リブラ、急ぎますわよ!」
「わ、分かった!」
これ以上騒ぎが大きくなれば、殿下の王位継承権が剥奪されるやもしれません。それは断じて避けなければ!
「殿下、どうかお留まり下さい……」
「……リファリス、殿下が心配なの?」
「心配に決まってます。もし王位継承権を失ってごらんなさい」
「う、うん」
「縛るものが無くなった殿下は、毎日わたくしに付きまとってきますわ!」
「あ~……間違い無い」
今でも辟易してますのに、更に増えられては堪ったものじゃありません!
「どうか、主のお助けを……」
ガチャアアン! パリリィィン!
「……どう考えても、騒ぎが広がってるよね」
きゃああああ!
「う、うぐふ……」
「他愛無いですね」
リブラ侯爵邸に無理矢理上がり込み、声がする方へ向かうと……。
「あら、聖女様ではありませんか」
あ、貴女は、メリーシルバー!?
「お久しぶりでございます」
綺麗なカーテシーを決められ、わたくしも反射的に返してしまいます。
「え、メリーシルバー!? 嘘でしょ!?」
「あら、シスター・リブラ。お久しぶりでございます」
「うええっ!? メ、メリーシルバーが壊れた!」
こ、壊れたと言うより、別人と言えるくらいお淑やかになったと言うべきですわね。
「メリーシルバー、それも大司教猊下の教育の賜物ですの?」
「御意にございます」
……ルドルフ……人格を歪めるのは如何なものかと。
「それより聖女様、愚姉が御迷惑をお掛けしているようで」
「それは否定しませんわ」
「……大変申し訳ございませんでした」
メリーシルバーは杖の先に愚姉……いえ、殿下をぶら下げ。
「回収させて頂きます。父には全て報告しておきますので」
「よ、よろしくお願いします」
メリーシルバーは憎々しげに殿下を睨み。
「全く、もうすぐ出陣だというのに」
え?
「今、出陣と聞こえましたが?」
「あ、はい。第一第二防衛線が突破されまして」
……え?
「第一王位継承者である姉が、主力部隊を率いて出陣する事になったのです」
第一だけではなく、第二防衛線まで突破されたとなると……王都は目と鼻の先……。
明日から新章、王都防衛編です。




