酒盛りと撲殺魔っ
聖地周りのゴタゴタはこれによって収束しましたが、戦況は未だに一進一退の様相を呈しているようです。
「苦戦しているのですね」
「苦戦っちゃあ、苦戦ですわな。相手は死に物狂いとしか言えないような戦法を執っていますから」
自由騎士団聖地駐屯部隊長を務める騎士様が、お酒を飲みながらわたくしの質問に答えて下さいます。
「そうらしいですぜ。流石にフリーダンからも何人か出兵してるんですがね、まだ一人も戻って来やがらねえ」
「副団長が心配して何人か更に派遣したんだが、こちらも音沙汰がねえ。報告自体なーんにも無いんだから、戦況を詳しく知るどころじゃねえって訳で」
隊員の皆様も、ガバガバとジョッキに注がれたお酒を胃に流し込まれています。
「……唯一分かってるのは、相手が徹底的に物流作戦で押し切ろうとしてるって点ですかね」
物流作戦……ですの?
「リファリス、要は数で正面からぶつかってきてるのよ」
「数で?」
リブラが解説してくれます。
「ええ。戦争の勝敗を左右するのは、軍の練度以上に数よ。どれだけ優秀な個が揃っていても、数の暴力には敵わない。多分だけど、魔王教は強制的に徴兵した農民や奴隷を最前線に出して、戦いを優位に進めてるんだと思う」
農民や……奴隷を?
「つまり、どうでもいい連中を消耗覚悟でぶつけて敵を疲弊させて、その限界点で正規軍で蹂躙しようって腹なんじゃないかな」
つ、罪無き人々を、そのような扱いで……!
「ま、昔っからある常套手段よね。聖心教だって昔は奴隷を大量に戦争に投入してたんだし」
「でしたら、聖心教同様、魔王教でも奴隷を廃止して頂かなくてはいけませんわね」
「そりゃそうなんだけど……まずは今回の戦いに勝たないとね。負けたら何もかもお仕舞いなんだから」
今回の駐屯部隊の皆様のご活躍を労う為、教会近くの食堂を貸し切り、ささやかながら祝勝会を催した折、そのような話になったのですが。
グビグビグビグビッ
ゴッキュゴッキュゴッキュ
「ぷはぁぁ……お代わり!」
「俺もだ!」
「こっちにもくれ!」
も、持ち込んだお酒だけで足りるかしら?
「リファリス、もう一回買いに走ろうか?」
「……お願いしますわ」
副団長様からお預かりしている予算内に抑えられるかどうか、とても不安です。
「聖女様、一緒に飲みませんか!?」
ハイ??
「あの、わたくしシスターですのよ?」
「俺達だって聖騎士ですぜ?」
うぐっ。た、確かに、聖騎士の方ばかりですわね。
「え、聖騎士ってお酒飲んでオーケーなの?」
「別に構わないんじゃねえか? 俺は毎晩飲んでるぜ」
「俺も」
「俺もだー」
それを聞いたリジーは、ドカッと椅子に座り……って、リジー!?
グビグビグビグビッ
「「「おーっ!」」」
「ふう……久しぶりだから美味しい」
「こ、こりゃ意外な飲兵衛が出現だな」
「おし、飲め飲め!」
「おし、注げ注げ!」
「ちょ、な、何を飲んでるんですの!? 何を飲ませているか、分かってるんですの!?」
「うい、酒を飲んでる」
「「「酒を飲ませてるんですぜ!」」」
それは分かってますわっ!!
「わたくしが言いたいのは、聖騎士が若い女性にお酒を飲ませる行為が如何なものか、という事です!」
すると騎士様は顔を見合わせてから。
「「「いや、勝手に飲み始めたのは、若い女性の方ですから」」」
うっ! そ、それは確かに。
「……リファリス、前から聞きたかったんだけど」
「何ですの?」
「そもそも、聖心教ってお酒禁止してるの?」
「いえ、してませんわ」
「だけどリファリス、自分では飲まないし、周りにも飲ませないと思われ」
「当たり前ですわ。まだ修行中の身の上ですから」
「それ、私達も対象なの?」
「無論ですわ」
「へえ……なら大司教猊下が飲んでるのはどうして?」
はい?
「うーい、美味しーい、にゃはー!」
な、ル、ルディ!?
「な、何故に貴女が飲んでるんですの!?」
「えー、飲みたいからに決まってんじゃーん、うーい」
お、お酒臭……! かなり飲んでますわね……!
「ル、ルドルフ大司教猊下に言いますわよ!」
「そのルドルフからお小遣い貰って『飲んで来い』って言われたんだよーい♪」
く……ル、ルドルフも半身には甘い……!
「と、とにかくいけませんわ! 教義に反してましてよ!」
「え? 教義には反してないよ?」
え?
「主は仰られました。『他人に尽くす以上に自らに尽くせ』と。自分の欲望を律してばかりじゃ、他人への奉仕をする余裕が保てなくなるだけだよ、にゃはー」
そ、それは、そうかもしれませんが……。
「という訳で、リファリスも飲んじゃえ♪」
「えええっ!? ま、待って下さい!」
逃げ出そうとしたわたくしを、リジーが遮ります。
「何ですの!?」
「……主は仰られました」
「はい?」
「飲んだら飲まれろ。飲まれれるのが酒、と」
「主がそんな事を仰る筈が無いでしょう!!!!」
「まあ、何でもいいや、うーい」
ちょ、待っ
「んぶぐっ!?」
ゴッキュゴッキュゴッキュ
「おお、良い飲みっぷり」
「リファリス、お酒調達してき…………何してんの?」
「何をって、リファリスにサケハラ中」
「さ、さけはら?」
「つまり、無理矢理飲ませてる」
「え…………わ、私、知ーらない」
「え、何が?」
「リファリス、言ってたもん。酔っ払うと、何もかも破壊したくなる癖があるって」
「「「え゛」」」
……あらああ。はかいしたくなっちゃいましたああ。
ブゥン! ドガアアッ!
「や、やべえぞ、これは!」
「聖女様を取り押さえろ!」
ふう……あついですわねえ。
バサッ
「なっ! リ、リファリス、何で脱いで」
パチンッ
「下着まで!?」
あつい……はかいしたい……あつい……はかいしたい。
ドッカンドッカンドッカン!
「うわあああ! 騎士さん達、止めてええ……って、何で皆屈み込んでるの?」
「「「は、鼻血が……」」」
「使えねえええええっ!」
……シスターは酒を飲むと露出魔で破壊魔になるのじゃな……。
シスター、酒癖悪すぎ。
明日は閑話です。