まったり撲殺魔と花火大司教っ
ブランドール会長が自供した事により、商会の悪行も次々と明るみになりました。
「……聖心教相手の場合は、寄付だけで無く普段の商取引でも明らかに悪意が籠もってますわね……」
わたくしはブランドール商会ではなく地元商店街で買い物をするのが殆どでしたので、幸運にも被害を最小に抑える事ができていました。しかし商会と懇意にしていた他の町の教会は……。
「教義で食するのが禁じられている鳥の肉の混入だけでは無く、汚物の混ざったものまで……」
それを聞かされたその教会の神父さんは卒倒して倒れ、未だに復帰の目処も立っていないとか。
「ひたすら聖心教への悪意のみに固執して、奴隷も聖心教徒ばかり扱って……もう執念と言うしか」
奴隷売買という顔の裏には、誠実で真面目な性格が見え隠れしています。但し、自分が信じていた魔王教に敵対するもの……つまり聖心教徒にはとことん残酷だっただけで。
「……会長が純粋な聖心教徒でしたら、数多くの方々の救いになったでしょうに……」
もしかしたら、と言う事でしかありませんが、悔やまれてなりません。
ブランドール会長はその後、獄中で自ら命を断ったそうです。邪教徒の手にかかるくらいなら、と舌を噛み切って。
「……一体、何がしたかったんだろうね……」
その一報がわたくし達の元にもたらされた後、リブラがポツリと呟きました。
「味方が誰一人居ない敵地で、一人ぼっちで、ただただ嫌がらせを続けるだけだなんて……」
「そう……ですわね。敵を内部から崩壊させるような工作をする訳でも無く、ひたすら奴隷売買と嫌がらせを繰り返していただけですし……」
奴隷売買だけ取っても極悪非道である事には変わりありませんが、聖心教の土台を揺るがす程の効果は見込めません。やはり、嫌がらせレベルでしょう。
「敵地に乗り込んで、命懸けでやるような事でも無いよね」
「……なら、他に目的があったと?」
……聖心教に与えるダメージは大した事はありませんが、注目を集めるという意味では大成功ですわね。
「……陽動……ですわね」
「陽動?」
「ええ。この騒ぎの間に、要人暗殺の為の工作員を潜り込ませるんですわ」
「要人って……まさか!?」
「まあ、大司教猊下を狙うと考えるのが自然ですわね」
それを聞いたリブラは、スッと立ち上がって駆け出しました。
「リブラ、行く必要は無くってよ」
「リファリス、大司教猊下に危険が迫ってるんだよ!? 助太刀しなくちゃ!」
「ですから、行く必要は無くってよ。既に自由騎士団が展開していますから」
「…………はい?」
「それにルディも臨戦態勢に入ってますわ。億が一にも大司教猊下に危険が及ぶ事は無くってよ」
リブラが唖然とした様子で。
「い、いつの間に……?」
と聞いてきましたので。
「戦時中ですもの、上層部を標的にする可能性は考えておくべきでしょう? 流石に今回のような事態は想像してませんでしたが、それでも暗殺者の襲撃くらいは想定してましたわ」
騎士団の皆様、張り切っていらっしゃいましたし、ルディの手を煩わせる事は無いでしょうね。
「おらぁ!」
ザクッ!
「ぎゃああっ!」
うわぁ……アタシの出る幕、一切無いんじゃ。
「どうしたぁ、暗殺者共が! 我らフリーダンに臆したか!」
フ、フリーダンってこんなに熱血だったっけ? 前の団長の時は、半ばやる気無しな人達だった気がしてたんだけど。
「く……ひょ、標的はもうすぐだ! 何としても突破して、使命を果たすのだ!」
「「「お、おう!」」」
おー、暗殺者全員で総攻撃。ついに自棄になっちゃったかな、にゃは。
「我らフリーダンに正面から戦いを挑むとは……豪勇と無謀を履き違えたらしいな!」
騎士の皆、殺る気満々だねぇ。
「フリーダン突撃ぃ! 大司教猊下に弓引く愚か者共を、一匹たりとも逃がすなぁぁ!」
「「「おうっ!」」」
うわぁ、殺る気増し増し。
「「「うおおおおおおおっ!!」」」
「くっ……げ、迎撃するぞ!」
あーあ、不意打ちに特化してる暗殺者が、フル装備の騎士団の突撃を止められる筈が無いじゃん。
ドドドドドドドドド!
「ひぎゃあ!」「がはあ!」「ぐふぁあ!?」
うんうん、予想通りに総崩れ~~……にゃは?
「せ、せめて大司教だけでも!」
あら、暗殺者達の必死の抵抗は、不意打ちから目を逸らさせる為の布石だったんだ~。
「建物ごと吹き飛ばしてやる! 食らえ!」
あれは魔力連鎖型の爆弾だね~……あれなら建物ごと爆破できるだろうけど。
「アタシも居るんだな、にゃは~」
「な、何だお前は!?」
「何だろうね。ま、バイバイバイ♪」
目の前の空間を、指でパチンと弾く。
バチィン!
「ぐがはぁ!?」
すると30mは離れてる暗殺者が吹き飛び、爆弾を落とす。
バチィン!
ヒュウン…………ドドォォォ……ン
も一回弾いて、落ちかけた爆弾を上空に飛ばし、爆破~♪
「たーまやーって言うんだっけ? にゃは~」
勝利の花火にしては、派手さに欠けてるけど……ま、いっか。
ドォォォォン!
「え、花火?」
あれは……聖地ですわね。
「どうやら勝利の花火のようですわよ」
「しょ、勝利の花火? それにしては、味気ない花火ね」
ですわね。味気ないと言うより、無粋な花火ですこと。