止められない想い
「あ、あはは。やっぱり止めとく? 私なんだかドキドキしてきちゃった……んぅっふ!?」
怖気づいた私の言葉は唇を塞ぐ柔らかい感触に塞がれた。息が詰まり、強張る身体。思わず蓮の着ているセーターをぎゅっと握り締める。
この時咄嗟に、いけないッ! という感情が私の中に走った。自ら吹っ掛けたくせに、蓮が望んでいないこの行為は駄目だと思い直し、ふと唇と唇の離れ際に何か言おうとした。
しかし次の瞬間、唇を割って口の中に侵入してきた温かくてねっとりする感触に、頭のてっぺんからつま先まで電気が走ったような衝撃を受ける。
口の中を優しく、けれども蹂躙するように動くそれが舌に絡みつくと、強張る身体が更に強張った。
だけど、それが蓮だと理解した途端に身体の力が一気に抜け、シャツを掴んでいた両手の握力もなくなってしまう。力を失い傾きかけた私の身体を蓮の両手がしっかり受け止めている。
じんわりと全身に広がる今までに感じた事のない奇妙な感覚に私は満たされていき、なんだかよくわからなくなってきた。
夢中になる私を差し置き、唇が離れた。
「プハッ……はぁ、はあ、ばか。いきなり……」
「ど、どうだった? やっぱりだめだったか?」
頭がボーッとしてぐるぐるしている。視界に映る蓮は頬を赤らめ視線を泳がせながら訊いていた。
だめ? だめって、何がだっけ?
脳がとろけてしまったのか、思考が纏まらない。
「ううん、駄目じゃ……」
そこまで口にして咄嗟に言葉を飲み込む。
そうだ、だめってキスが下手だったかって事だ。と会話の流れを何とか思い出した。
恍惚としていた自分が恥ずかしくて、私は顔を見せないように下を向いた。恥ずかしい、恥ずかしいけどそれ以上に……。
「……かんない。てか、いきなりとか意味わかんない! だから、もう一回」
そう言って私は蓮の首に両腕を回し、身体を密着させた。
そう、初めての経験の私に上手いか下手かなんてわかるはずない。だけど一つ分かることは、私にとって蓮のキスはこれ以上ない至福を与えてくれるということ。
まだ頭の中がボーッとしていて何がなんだかよくわからない。ただ蓮が少し戸惑った様子で「え? お、おう」と応じた。
再び触れる蓮の唇。今度は私から蓮の舌を探した。優しく触れ合った温かな感触が、強く私の舌を捉えた。同時に蓮の両腕が私をぎゅっと抱き締める。
心地良い息苦しさが私の頭をぼんやりさせ、息が詰まった私は必死の思いで吐息を漏らす。
また私を差し置いて唐突に唇が離れる。私は抗議の視線を蓮に投げかけた。
「どうだ?」
「もっと……」
喪失感を埋めたくて私はただ蓮を求めた。
蓮が僅かに声を発したような気がしたが、私はその開いた唇に自ら唇を重ねた。
少し戸惑ったようだったけど、すぐに優しく応じてくれた。
蓮……蓮……大好き。私は蓮が大好きだよ。
頭の中で反芻する告白の言葉。叶わないと知りつつ抱き続けた想い。私にはもう止めることができなかった。
身体が熱くなって、蓮のことをもっと感じたくて、私は夢中で蓮とのキスに耽った。
不意に離れた唇。私の口から荒い呼吸が洩れる。
ぼんやりした私の視界に映る蓮は、俯き目を閉じていた。
「さくら、ごめんな。やっぱこんなのだめだ」
蓮の言葉が、痺れて上手く働かない私の頭にゆっくりと入ってきた。