仮恋しない?
高校からの帰り道。住宅街を突き抜ける緩やかな坂道を今日もてくてくと下る。
隣には幼馴染の蓮がいつも通りだらだらと歩いている。癖毛の天然パーマをそれなりにセットし、細身の輪郭に高い鼻、しゅっと走る眉毛。端正な顔立ちなのは間違いないが、いつも眠たそうな一重目蓋は今にも落ちそうだ。
私よりも十センチも背が高いのに、持ち前のだらだら歩行のおかげで普通に歩いている私といやにペースが合う。
びゅうっと身を切るような冷たい風が坂下から吹き付ければ思わず身を竦める私以上に、情けないほど腰を曲げて小さくなりぶるぶると震えていた。
「うぅ〜、さみぃな〜」
「おじいちゃんみたいになってるよ。もう! しゃんとしなよ!」
腰の辺りを手のひらでぱんっと叩くと、蓮は寒さに呻きながら身体を起こした。両手で身体を擦り暖を取ろうとしている。
「はあーあ、身も心も温まるようないい出来事ないもんかね、毎日毎日学校行って帰ってきて飯食って風呂入ってうんこして寝る。俺の青春はこんなもんか? なあ?」
「知らない」
「何だよ、冷てえな。幼馴染の悩みに真剣に答えてあげようって気はないのかね」
じろっと蓮を睨む。
「そんな文句ばっかり言うなら彼女の一人でも作ったら? 年齢イコール彼女いない歴の蓮くん?」
「さくらには言われたくねえ。お前だって彼氏いない歴イコールだろ?」
「私はあんたと違って告白くらい何回もされてます。だけど付き合わなかったってだけだもんね」
「告白されたことないって決めつけんじゃねえよ」
「へぇ~、あるの?」
「うっ」
蓮は黙った。嘘をつけない性格なのは知っているが、この年になっても見栄を張る嘘の一つもつけないらしい。
そんな蓮らしさを垣間見て、思わず笑ってしまう。
「蓮は顔もスタイルもまぁまぁなのに、その無気力感が残念なんだよね〜。まあ、頑張りなよ。そんな蓮でも好きって子はきっと現れるよ」
心にもない事が口をついて出る。本当は応援なんてしていない。蓮には私の事を女の子として見て欲しい。だけど、小さい頃からずっと一緒だった蓮にそんなこと言えるはずないし、望めるわけもなかった。
「くっそ~。言い返せねえ」
髪の毛をがしがしと掻きながら悔しそうにする蓮の横顔を見つめる。
私は以前から言ってみようと思っていた事を今伝えてみようかと思った。手には緊張からかじっとりと冷たい汗をかいている。
「じゃあさ」
「ん?」
私の喉がごくりと鳴った。
「私と仮恋しない?」