ダメ人間な私が、コンビニ夜食をキメて本当の自分を取り戻す話。
一日の帳尻を合わせたくなること、ありませんか?
私はあります。
例えば、真面目に働いた後は何もせずダラッとしたい、とか。
ヘルシーなものを食べた後はジャンキーなものが食べたい、とか、そういうのです。
本来の自分の"程度"に合わせるための調整。
それを私は、『帳尻合わせ』と呼んでいます。
そして、その『帳尻合わせ』における最も画期的で効果的な方法が……
"お夜食"、なのです。
その日、私は珍しくおしゃれをしていました。
学生時代の友人二人と、久しぶりに食事をしたのです。
二人とも絵に描いたようなキラキラ系女子なので、適当な装いで行くわけにはいきません。
普段なら十分で済ませるメイクに三十分かけ、滅多に着ない綺麗めワンピースを着て、パンプスのヒールを鳴らし街へ繰り出しました。
そうして友人と落ち合い、予約していたカフェレストランで、おしゃれで美味しい料理を食べました。
キラキラした女の子たちと、おしゃれな空間で、おしゃれなものを食べる。
そんな、ちょっと非日常な食事会をめいっぱい楽しんでから、私は帰路に着きました。
嗚呼、なんだか自分までキラキラ女子になった気分だ。
しかし、話が盛り上がりすぎてすっかり遅くなってしまった。お風呂に入ったら、すぐに寝よう。
そう考えながら、辿り着いた自宅の扉を開け、中へと入ります。
玄関でパンプスを脱ぐと、リビングに向かいながらストッキングを脱ぎ。
それを脱衣所のカゴにノールックでシュートすると、髪を解き、リビングのドアを開け、ワンピースのファスナーを下ろします。
鞄を床に置いて、ワンピースを脱いで、すぐに部屋着に着替えると……
ソファーにドカッと座り、一言。
「……はぁ。揚げ物食いてぇな」
これです。
この落差が、『帳尻合わせ』です。
家に入った瞬間、お出かけモードは終了。速攻で武装を解除し、待機充電モードへ移行します。
"おしゃれなキラキラ女子"気分のまま一日を終わらせることなど、私には出来かねるのです。
何故なら私は……
"おしゃれなキラキラ女子"ではないからです(迫真)。
もう限界でした。今すぐ本来の"ダメな自分"を取り戻さなければ気持ちが悪くて仕方ありません。
洗面所に向かい、メイクを落としメガネをかけると、ようやく少し落ち着きました。
が、まだです。まだ帳尻が合っていません。今日はおしゃれを浴びすぎました。
何せ、友人とシェアした料理は……
季節野菜のバーニャカウダ。
そば粉のガレット。
白身魚のアクアパッツァ。
もちろん、美味しかったです。
見た目もとても華やかで、おしゃれで、見ているだけで楽しいものでした。
しかし……
私は、友人である二人に、一つだけ嘘をつきました。
二人に合わせて「お腹いっぱーい」と言ったあのセリフ……
あれ、嘘なの。
本当は全然、足りませんでした。
二人には申し訳ないけど、もう臓腑の造りからして、私は"非おしゃれ人間"なのです。
ごめんね。
こんな私を誘ってくれて、本当にありがとう。
でも……
やっぱり私、このままじゃいられない。
行こう。
"本来の自分"に見合った食事を……カロリーでぶん殴ってくるような、脂と塩気に全振りした夜食を探しに。
そうして私は家を出て、深夜のコンビニへと繰り出しました。
──すっかり暗くなった住宅街に、コンビニの明かりだけが煌々と輝いています。
まるで、今日を終わらせたくない人間のために用意された"深夜の太陽"です。
自動ドアが開き、店内に足を踏み入れると、まず最初に向かうのはカップ麺コーナーです。
即席麺の利点は、『すぐ出来るのにちゃんと美味い』。これに尽きます。
しょうゆ、塩、みそ……様々な味のカップ麺が並び、つい目移りしてしまいますが、今日の気分は決まっていました。
背脂とんこつ。
『とんこつ』ではありません。『背脂とんこつ』です。
今日の帳尻を合わせるのに必要な要素。それが、『背脂』です。迷わず手に取ります。
それから、カップ麺のお供に欠かせないのが、おにぎりです。
……いや、食べますよね? カップ麺+米。最強の組み合わせでしょう?
と、一人言い訳をしながら、おにぎりコーナーへと向かいます。
これももう、味は決まっていました。
ツナマヨ。
今日はツナマヨ一択です。
想像してください。
あの、ツナのじゅわっとした脂を。
マヨの酸味とコクを。
美味しいでしょう?
たまりませんよね?
はい、ツナマヨに決まりです。
さて、量としてはこれで十分ですが……私には今、どうしても満たしたい欲求がありました。
それは……"揚げ物欲"。
それを満たしてくれるのが、コンビニのレジ横にあるフライヤーコーナーです。
唐揚げにフランクフルト、ポテトに焼き鳥と、どれも美味しそうですが……
骨なしフライドチキン。
その文字列に、私の中の"揚げ物欲"が歓声をあげました。
カリッ、じゅわぁあっ、なあの味わいが、容易に脳内再生されます。あれは一体、何なのでしょう。ヤバいブツが入っていることを疑うレベルで依存性があります。その謎を検証するためにも、購入しないわけにはいきません。
さて、そんなこんなで。
私はレジに向かい、その三点を購入し。
ワクワクした気持ちを抱え、自宅へと戻りました。
──帰宅後、すぐに準備に取り掛かります。
カップ麺のために電気ケトルでお湯を沸かし、おにぎりも数十秒だけ電子レンジで温めます。
その間にフライドチキンを齧ってしまいたくなりますが、そこはぐっと我慢です。
そうして出来上がったお夜食を、テーブルの上に並べます。
カップ麺に、おにぎりに、フライドチキン。
白い湯気と共に、いい香りが立ち込めています。
……嗚呼、やっちまったなコレ。
完全に金払ってカロリーを買って来たなコレ。
だが、それでいい。
それが、私なのだから。
……食べよう。
いただきます。
まずはカップ麺から。
おぉ、ちゃんとスープに背脂が浮いています。浮きまくっています。美しい。
ふうふうと息を吹きかけてから、ずずずっと啜ると……こってりとしたとんこつの味が口いっぱいに広がります。
すぐにもう一口、ずずず。
……はぁ、うま。
疲れた身体に染み渡るぅ。
次に、麺を啜ります。
これも美味い。細い縮れ麺がスープをよく絡めています。今どきのカップ麺は本当においしいです。
麺を一頻り啜った後は、強力な相棒・ツナマヨおにぎりの登場です。
これを一口齧り、すぐ追いかけるようにスープを流し込みます。
くぅぅ……合うぅっ。
しょっぱいスープと米の組み合わせ、最強すぎる……ツナマヨのマイルドさがまた良い。
あまりの相性の良さから一気におにぎりを食べてしまいそうになりますが、もう一つのメニューを忘れてはいけません。
そう。骨なしフライドチキンです。
これもまた米に合うわけです。
袋から取り出し、齧り付きます。
瞬間、カリッという小気味良い音。脳みそが痺れます。
そしてザクザク咀嚼する度にじゅわっと溢れる肉汁……これを受け止めてくれるのも、やはりおにぎりなのです。
ふぇぇ、うまい……コンビニのフライドチキンってほんとズルイ……あんなレジ横に置かれたらつい買っちゃうだろバカ……好き……
嗚呼、深夜にこんなものを食べるだなんて。
ダメだとわかっているのに、美味くてたまらない。
背徳感って、最高の調味料だ。
そうして、カップ麺→おにぎり→フライドチキン→おにぎり……のコンボを繰り返します。
柄にもないキラキラおしゃれに染まった心と身体が、本来のダメさを取り戻していくのを感じます。
そう、これでいい。
この、ガッツリこってりとした食事を深夜に嬉々として貪るのが、私なのです。
さすがに買いすぎたかな? と思っていましたが、気のせいでした。気が付いたら全て胃の中に納まっていました。
ふぅ。美味しかった。
ごちそうさまでした。
さて、さすがにこんな時間に食べてすぐ寝るのは不健康だから、お風呂から上がったらストレッチでもするか……
なんて、思うはずがありません。
ザッとシャワーを浴びたら、速攻で寝ます。
そして、ふかふかのお布団に包まれながら、思うわけです。
今日も実に良い『帳尻合わせ』であった。
やっぱり私はこうでなくちゃ。
おしゃれな服も、おしゃれなご飯も大好きだけれど……
深夜に食べるコンビニ飯の美味さも知っている。
そういうものに、わたしはなりたい。
不健康ニモマケズ、体重増加ニモマケズ……
などとくだらないことを考えて。
帳尻の合った今日に大満足をし、瞼を閉じます。
次からはアイスを追加しよう、なんて、懲りない決意を固めながら──
お読みいただきありがとうございました!!