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9話・政略結婚のお誘い。

 何故、サイレウスは近付いて来たのかしら。


(幼馴染みとしてずっと一緒だったのに、彼の考えていることが分からない)


 まるで、婚約していた事実も無かったかのようにいつも通りに近付いてきた。


(いいえ。婚約していた事実を解っている上で、まるで私が我儘を言っているかのように責めたわね。何故、私があんな風に言われなければいけないの?)


 リュウテル様に手を引かれながらも思考は状況とはかけ離れていて。


(婚約を解消したい、と貴方が言ったの。私の気持ちが届いていなかったとしても、私の気持ちを知りながら踏み躙ったのは、サイレウス様なのに)





 ーーどうして、貴方は今までと同じで居られると思ったのかしら。婚約を解消したからって今まで通り幼馴染みを平然と続けられるわけがない、じゃない。私の気持ちを砕いて不要だと言ったのは、貴方なの。





 しかも、私が手を振り払ったら、傷ついた顔をした。貴方が傷付くのなんておかしいじゃない。先に誠実とは言えない態度を取ったのは……幼馴染みとしての情すら私に捨てさせる決意に追い込んだのは、貴方なのに、サイレウス様。


 もしかして今まで通りの関係で居られると思ったの? 私を傷付けておいて? それはいくらなんでも都合が良いじゃない。それに、いくら幼馴染みでも女性が恋人の近くに居るなんて普通は平気でいられないのよ。マナック様が嫌がるだろうってどうして考えないの。私がマナック様なら本当に友達や幼馴染みならちょっと嫌な気持ちになるけど、文句は言わない。でも、元婚約者の幼馴染みなんて、絶対嫌だわ。変に勘繰ってしまうもの。そういうことに気付かないの、サイレウス様。






「ユリシーラ嬢、大丈夫?」


 リュウテル様に声をかけられハッと我に返る。


「はい、大丈夫です」


 なんとか淑女の仮面を被って応える。そしてリュウテル様に促され辿り着いた先は、当然ながら上位貴族様方がお使いになられるサロンでした。私達1年目の最高位は侯爵家令息のリュウテル様ですが、3年目の学年には公爵家の方がいらっしゃいます。


 ここで皆で美味しく昼食……無理です。私には無理です。促されて着いて来ましたがやっぱり学食に戻りたい。さて、なんて言って戻ろうか考えている私の前で無情にもそのドアはリュウテル様の手により開いてしまいました。溜め息が出そうです。


 それに、サイレウス様の恋のお相手であるマナック様が属する保守派の筆頭であるヤニシラ公爵家のご令嬢がいらっしゃいます。一応学園では貴族も平民も身分差などなく、当然ながら革新派と保守派も関係ない、というのが表向きですからサロンには保守派の方々もご利用されます。……口論みたいな事は起きないのでしょうか。


 あ、私が浅はかな考えをしてしまいました。口論とか、いくら上位貴族が利用出来るサロンとはいえ、当然上位貴族専属の使用人も居ますし、用事が有れば教師も訪ねて来ます。そんな所で他者の足を引っ張るような話の種を振り撒くような方々では無いですね。






「ジェノリア侯爵令息。そちらは?」


 私が脳内でそんな事を考えて突っ込んでいた矢先。そのヤニシラ公爵令嬢様がお声をかけていらっしゃいました。


 ど、どうしましょう。リュウテル様が私を紹介したら名乗るべきですか?


「例のドルレク商会子息の元婚約者ですよ」


 例の。

 リュウテル様の意味深な発言。ヤニシラ公爵令嬢様は、ああ……とご納得されている。有名、なのでしょうか。


「初めまして、ね。私はヤニシラ公爵家のメイサ・シーマ」


 うわぁあ。マズイです! ヤニシラ公爵令嬢様から名乗られてしまいました! 名乗らない不敬など出来ません。


「は、初めてお目に掛かります、ヤニシラ公爵令嬢様。私、ルドウィグ男爵家が娘、ユリシーラ・ファルクと申します」


「ユリシーラね。よろしくね」


 よ、よろしくされちゃいました……。い、良いのでしょうか、保守派の筆頭の家柄の方にこのような……。


 グルグルと思考が渦巻く私にリュウテル様が「取り敢えず其処に座ってくれる?」と仰るので、3人掛けソファーに腰を深くして座りました。……毛がフワフワしていて沈みそう……ではなく沈んでしまい体勢を崩しました。リュウテル様にクスクスと笑われながら助け出され……私は背もたれにも身体を預けないように、ソファーの端にチョコリと座り直しました。





「あらあら。そんな畏った座り方でなくて良いのよ」


 一部始終を見られていたヤニシラ公爵令嬢様がそのように笑いながら仰る。は、恥ずかしい……。やはり上位貴族専用サロンなので物が違います。ウチのソファーはこんなにフワフワしてないし柔らかくないです。


「お、お見苦しい物をお見せしまして」


「ああ、気にしないで。それと、取って食おうとしているわけじゃないからそんなに固くなる必要も無くてよ」


 そう仰られても……。ヤニシラ公爵令嬢様は気難しい方かと思っておりましたが、全然違いました。気さくな方です。






「ユリシーラ嬢。取り敢えず客人が来る前にご飯を食べちゃう?」


「客人? お客様がいらっしゃるのですか? そんな大切な時に私なんかが」


「ちょっと待って。なんかって言い方はしない! 卑下する事じゃないよ。それと、客人は君に関する事なんだ。実は勝手で悪いが君の午後の授業は休みと届けを出してある」


「え? え?」


 リュウテル様の仰る事がよく分からず、話についていけない私に、ヤニシラ公爵令嬢様が「お腹空いているでしょう? 私も空いているから食べてしまいましょ」と勧めるので、私が腰掛けたソファーの前にあるローテーブル(この材木って樫でしょうか。重厚感があってこのサロンの高級感を出していますが)に食堂から持って来たトレイを置いて食べ始めます。


 で、私の前にリュウテル様が食堂から運び込まれたらしいランチを食べています。1人分空いたその隣にはヤニシラ公爵令嬢様がやっぱり食堂から運び込まれたらしいランチを。……コレ、どんな光景なのでしょう。緊張しますが残すのも勿体ないので、無言で目の前のランチを片付け終えたところで、サロンにいた使用人さんが私のトレイを片付けて下さいました。


「ありがとうございます」


 素直に礼を言ったら目を丸くしてから「いいえ仕事ですから」とニッコリ微笑まれました。それから食後のお茶を使用人さんが出してくれた所へタイミング良くサロンにどなたかが入って来られました。


「遅れたかしら」


「いいえ。ちょうど良いですわ、マルガリッタ様」


「そう? 良かったわ。メイサ様、お久しぶり」





 まさか、まさかの我が革新派のトップ。ナホージ公爵令嬢様じゃないですかっ。というか、革新派と保守派のツートップのお家のお2人なのに、仲良しっぽいのですが。えっ? どういう事ですか?


「リュウテル様もお久しぶりね。ああ、ユリシーラ様もお久しぶり」


「お、お久しぶりにございます、ナホージ公爵令嬢様」


 ナホージ公爵令嬢様に声をかけられ、私は直ぐに挨拶をする。寄親であるハーク子爵家のご親戚である事から、年に一度お目に掛かる雲の上のお方です。


「ええ。そんなに畏まらないでくれる? それと、私はマルガリッタで構わないわ。メイサ様も名前で大丈夫」


「か、かしこまりました」


 名前を呼べ、と言われてしまえば頷くしかない。それにしても、昨年この学園を卒業され、現在は王太子妃に内定されて来年の春に挙式されるに辺りお忙しいはずのマルガリッタ様が、何故、ここに……。





「さて。リュウテル様、説明は?」


「いえ、マルガリッタ様がいらしたら、と思いまして」


「そう。……ユリシーラ様、色々と話が有るけれど先ずはあなたに謝る事が有ります」


「へ?」


 雲の上のお方に頭を下げられました。それどころかメイサ様にも頭を下げられまして、何これ状態。ど、どうしたらいいのでしょうか。いえ、とにかく、頭を上げて頂きましょう。





「あ、ああああの、頭をお上げになって下さいませ」


 公爵家のご令嬢2人が男爵令嬢如きに頭を下げるなんて前代未聞です。お2人は、私の言葉に頭を上げると謝罪についてお話をされました。


「実はね、あなたの婚約者だったドルレク商会子息の件なのだけど。我が派閥のグロース男爵令嬢、ネフェリ・マナックに近づくように命じたのは、私とマルガリッタ様なのよ」


「ど、どういう……?」


「表向きは私、メイサが命じただけなのだけど。実際にそうだし。ただ真実は私とマルガリッタ様の命なの。理由はこれから話すわね」


 そう仰ったメイサ様。その後を引き取るようにマルガリッタ様が切り出した話は、言葉を失うものでした。






「ユリシーラ様。あなたに政略結婚を頼みたいの」


(政略結婚を頼みたい? ええと……ど、どういうことでしょう?)


 話が全く見えて来ない私に、返答待ちのような顔をしているマルガリッタ様とメイサ様。ど、どうしたら……と思っていた私をソファーから救ってくれたように、リュウテル様が救って下さいました。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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