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6話・帰国したら修羅場。

ドルレク商会・会長夫人スペラ視点です。

「ただいま、あなた」


 今回の取り引きは2ヶ国を渡り歩いたもので、我が家に帰り愛する夫の顔を見て、ようやく帰国出来た事にホッとしていた私……スペラの視界には顔色の悪い夫が。この顔色の悪さ……1度だけ「一晩の過ち」とか言って浮気された時と、ドルレク商会の商品が一時期全く売れなくて途方に暮れていた時と同じくらい、ね。商品の売り上げは数ヶ月前にこの国を出るまでは順調だった。その後の夫からの手紙にも商会の危機なんて……無かった。





 と、いうことは。


「あなた! 2度目は無いって言いましたよね! 相手の女が誰で有っても離婚しますわよっ!」


「待てっ! 誤解だっ! 俺はあの時から他の女など見向きしてない!」


 私が2回目の浮気は許さないわ! と言えば、違うと叫ぶ夫。私の隣で少し唖然としている息子・ソレインの顔を見て落ち着いた。それから夫の顔を見て嘘は無さそうだ、とも理解する。そもそもあの一晩の過ち事件も夫はあからさまに様子がおかしかった上に、私が疑う前に謝罪をした。それ以来確かに女の影もない。





 だから2度目が有ってもきっと直ぐに謝罪をしているはず。……相手の女に本気じゃなければ。そうだとすると? 他の要因?





「何が有ったの?」


「先ずは、お帰り。2ヶ国も行ったのだ。疲れただろう。いつも私と商会のためにありがとう」





 夫はいつも帰国するとこう言って労ってくれるけど。その言葉は本心だと解る。それならば浮気ではないと信じよう。





「何が有ったの?」


 もう一度問いかける。


「疲れている所悪いが……いいか? ソレインも」


 ソレインにも、という所で事態は夫婦間の問題では無い事を知った。





 そして私は夫の顔色の悪さの意味を知る。唖然としてサイレウスに激怒したが……先ずは言うことがある。


「あなた。浮気を疑ってごめんなさい」


「いや、構わない」


 そう、夫に疑った事を謝ること。これは一番にすることだった。それから……


「それで? その愚か者は今どこに?」




 ーーサイレウスにこの怒りをぶつけること。




「部屋で休まれているか、と」


 ジャンが恐る恐る口にして来たので(私とソレインとセイバルにお茶を出してそのままこの部屋に居た)どういうことか訊ねれば、可愛い可愛いユリシーラを傷つけた上に浮気相手のアバズレ女とデートに出かけたまま今朝まで帰宅していなかった、とのこと。


 それを聞いて私の怒りは益々酷くなったが……それ以上にソレインが激怒した。





「あのバカ! ユリシーラを傷つけただけじゃなく遊び倒していた、だと?」


 怒りと共に足早に動き出した。サイレウスの部屋だろう。当然私も行こうとしたのだが、少しだけ早くセイバルに止められた。





「スペラ待ってくれ! 実は今朝まで帰って来ないなんて思わなかったから、サイレウスと色々話し合い、スペラとソレインとも話し合った上でホアセンと話し合うつもりだったんだ! 今日の夜にはホアセンが来る!」


 ユリシーラが婚約解消を受け入れてしまった以上、セイバルの親友・ホアセン様が話し合いに来るのは解っていた。本来なら昨日のうちにでも話し合いたかったはずだ。私が今日帰国する事が判っていたから譲歩してくれたのだろう。それはそうだ。ホアセン様の最愛である亡き奥様・テレサ様の忘れ形見であるタセド君とユリシーラの事をホアセン様はとても大切にしているのだから。


 私だって子を持つ親。大切な子どもが蔑ろにされた挙げ句嘲笑の的になっていた、なんて知ったら激怒して一刻も早く婚約解消をしているだろう。そこを数日とはいえ待ってくれているのは、ホアセン様とセイバルの友情があるからに他ならない。





「ユリシーラは来ますの?」


「先触れには書かれていなかった。おそらく来ないだろう」


「そうでしょうね」


 ユリシーラが愚か者・サイレウスに淡い恋心を抱いていたのは、同じ女である私の目から見て明らかだった。サイレウスは……ユリシーラを大切にすると言っていたのにっ。大体、亡きテレサ様の墓に誓ったではないの! ユリシーラを一生大切に幸せにする、と! それすら忘れているのかしら!


「行きますわよ、あなた」


 もうあの子を許す気などなかった。





 そもそもあの子はドルレク商会を継がないとはいえ、ソレインの片腕としてドルレク商会で働いてもらうつもりでいた。ソレイン程教育は施していなくても、それは後継ぎであるかどうかの差で有っただけ。未だに結婚相手が居ないソレインだから、サイレウスと結婚する予定だったユリシーラが商会を手伝いたい、と申し出てくれた時には私の後継としてドルレク商会を盛り立ててもらえるよう、教え始めていたというのに。


 大体、サイレウスが手伝いをしない事がおかしいのよ。ユリシーラは進んで手伝いを申し出てくれたけど、サイレウスは言わないとやらないなんておかしいわ! あの子、そういったことも何も考えていないのかしら。まさか、ユリシーラが手伝いをしてくれていることを当たり前のように思っているんじゃないでしょうね!





 サイレウスの部屋で私と夫を待っていたらしいソレインと共に押し入ったと同時に夫がサイレウスを殴って起こしていた。……ああ、やっぱりあなたも怒っていたのね。まぁ当然よ。突然の事に訳が分からないような表情を浮かべながらサイレウスがベッドから転げ落ちて呆けていた。すかさずソレインがまた殴り付けて、更に私も平手打ちをしてやった。


「な、何をするんですか!」


「「「うるさい」」」


 サイレウスが抗議してきたけれど、私達は口々に叱り付け……サイレウスの反論など許さない。


 元々この婚約はサイレウスが望んでいたのに、それも忘れて浮気など……と怒り、婚約を解消するにしても浮気相手同伴でするなんて、どれだけユリシーラを傷つければいいのだ、と怒り。学園で嘲笑されていたというユリシーラを庇う事も守る事もしなかった事を責め立てて。それも亡きユリシーラの母・テレサ様に誓った想いも忘れたの、と私は泣き叫び……最終的に夫が口にしたのは。





「サイレウスとの縁を切る。お前はドルレク商会と我が家とは何の関わりもない! おまけに、浮気相手がよりによって保守派の男爵家の娘だと⁉︎ 我が商会を潰す気かっ!」


 夫は絶縁を叩きつけた。


 よりによって革新派に後ろ盾になってもらっていた我が商会だというのに、恩に砂をかけるような事を仕出かしたと言われて、あまりの愚かさに溜め息を吐き出してしまった。好きになった相手が保守派の男爵令嬢だというなら、絶縁をして婿入りなり相手の令嬢に平民になってもらって結婚するなり……という事しか有り得なかった。





 だというのに、サイレウスは事の重大性を理解していない。何故絶縁されなくてはならないのか、と嘆く。婚約したい、なんて言った記憶は無いとも言うが、それは親である私達が聞いていると言えば渋々黙る。そしてテレサ様に誓った事実は無い、とまで言った。それにユリシーラのことは、好きでは無かったとか言い出すし、()()()婚約解消くらいで絶縁なんて……というので、ウチの後ろ盾が革新派だという事くらい知っているはずだ! と怒ったというのに。





 革新派も保守派も解らない事が不安を誘う。もしや学園でそれなりの成績を修めているというのは嘘なのでは……と。けれど、それを問い詰める前にセイバルがホアセン様との話し合いの落とし所を話し合おう、と言うので一先ずサイレウスは後回しに。ソレインにサイレウスをお手洗い以外、部屋から一歩も出さない事を頼んで、夫と話し合う。


 どう考えても革新派と事を荒立てるのは良くない事がお互いの意見の一致で。正直なところユリシーラが義娘にならない事はショックでしかないけれど、婚約解消を受け入れてもサイレウスは絶縁して革新派との縁を繋いでおく事で一致した。なんだったらこちら有責の破棄でも構わない。慰謝料もきちんと支払うということで夫とは合意したけれど……





 結論から言えば、怒り心頭ながら冷静に婚約解消の話し合いをしてくれたホアセン様から、たとえサイレウスの浮気という有責だとしても、婚約の破棄ではユリシーラに傷が付く。解消ならばお互いあまり悪い印象にはならない。本当なら白紙が良いのだが、既に婚約していた事は国王陛下の耳にまで入っている事から白紙にするのは難しいだろう。


 以上のことから、解消に同意するしかなかった。それ故に互いが納得済みという形なので慰謝料すら支払えない。その代わり……と提示された条件は。





「ユリシーラは、サイレウスが本当に好きだったようだった。もちろん今はもうそんな感情は無いが、それでも元婚約者という間柄は周囲から色々言われる。だからユリシーラはサイレウスに近づかないからサイレウスもユリシーラに近づかないで欲しい、それがユリシーラの望みだ」


 ホアセン様が提示した条件を呑み込むしかなく。こちらも直ぐにサイレウスを絶縁するのはユリシーラが気にすると困る事から、学園卒業後、サイレウスとの縁を切るとホアセン様に話し、ホアセン様もそれで納得してお互いが書いた婚約契約書を破く事で、ユリシーラとサイレウスとの婚約は解消されてしまった。


 ホアセン様は1発殴りたいって顔だったけれど、それをしてユリシーラに近づかれても困るから、と諦めたようだった。セイバルが代わりに殴っておいた、と言えば、少しはスッキリしたような顔をしていたのが、幸いだったかもしれないわ。

お読み頂きまして、ありがとうございました。

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