5話・幸せの後の不幸は、とても辛い。
サイレウス視点です。
俺はユリシーラに婚約解消を申し出てスッキリしていた。ユリシーラの事は幼馴染みとしてそれなりに大切にしていたが、俺は運命に出会ってしまったのだ。俺の運命の女性はネフェリ。ユリシーラと同じ男爵家の令嬢だが、俺を学園の中等部最終学年で見かけて一目惚れをしてくれたらしい。
その後、俺がネフェリの落とし物を拾った事で益々運命だとネフェリは思ったようで、最初のうちは、挨拶だけだった。それから段々と色んな話をして……好きだという気持ちが抑えられなかったらしい。2人っきりになった時にそう告白されて……明るいイエローの目が潤んでいて、しかも顔立ちは美少女なのだ。恋に落ちない方がおかしい。
この時の俺の頭には、幼馴染みの婚約者であるユリシーラの事なんて、これっぽっちも無かった。直ぐに告白を受け入れて付き合い出してからようやく思い出して……ネフェリには幼馴染みの婚約者がいるが、機会を見て婚約を解消する、と説明した。そうしたらネフェリは可愛く嫉妬をするのだ。益々ネフェリに惹かれた。
ユリシーラとの婚約はお互い幼馴染みで仲良いからってだけのもので、お互いに愛なんてない。大体愛情が有ったなら、このネフェリみたいに可愛く嫉妬したり目を潤ませたり、手を繋いで来たりキスくらい出来たりするもんだ。ユリシーラは、全くそういった態度を見せない。まぁ俺もそんな気持ちになれなかったからいいけど。
好きだとか言われても、俺は別にって感じだったし、お茶をしていても会話が詰まらない女だった。何しろウチの商会を手伝っているからってどんな物が今は売れるとか、こういう物があれば売れそうとか、そんな話しかしない。
婚約者ならもっと俺を褒めて俺を気分良くするべきじゃないか? そういう所が気の利かない幼馴染みだったな、あいつ。でもまぁ頭は良いから同じ商人科なのは、良い事だった。婚約者の特権で宿題は丸写し。試験勉強前には分かりやすく授業内容をまとめた紙を俺に寄越して来たからな。そのおかげで俺は殆ど勉強しなくても成績は良かった。
ユリシーラと婚約していて良かった点はそれくらいか。休暇明けには婚約が解消されているだろうが幼馴染みなんだから宿題もいつも通り丸写しさせてくれるだろうし試験前も分かりやすくまとめてくれるだろうから、この休暇中に勉強をしておくように、という教師の話などすっかり忘れていた。
そうだ。折角ユリシーラと婚約解消の話に進むし、ネフェリとデートして。後は家に帰って来ないで友人達に婚約解消の祝いをしてもらおう。学園で知り合った友人達は皆、俺とネフェリが上手くいくことを願っていたからな。父さんに話すのは、母さんと兄さんが帰って来た時で良いだろうから……明後日だったっけ。じゃあ明後日の朝に家に帰る事にして、友人達と祝いだな。
平民だったり下位貴族だったり色々だけど、皆、金が無いから俺が奢ってやらなきゃ。酒はさすがに18歳からだから無理だが、酒が無くても遊べる。賭け事じゃないが、似たようなものだけどな。金は賭けない。勝負して負けると自分の恥ずかしい過去を暴露する。可愛いモンだよな。
そんな感じでネフェリとデートをして遊び倒した俺が家に帰ったその日。父さんと母さんと兄さんの3人から怒られるだけでなく、父さんと兄さんからはグーで殴られ、母さんからは平手で打たれるなんて、この時の俺は全く考えてもみなかった。
「ただいま〜」
遊び倒して母さんと兄さんが帰って来る日の朝に帰宅した俺は、執事のジャンを含む使用人達から白い目を向けられている事にも気付かず
「母さんと兄さんが帰ったら起こして〜」
と、呑気に寝入った。
数時間後、帰国した母さんと兄さんと共に父さんが部屋にやって来て寝ている俺をぶん殴って起こすなんて事になるなんて、知らないまま気持ちよく寝ていて……その夢では愛する恋人・ネフェリと幸せな結婚生活を送っているというものだった。
起きた後の地獄を考えたら、その夢が天国だったと言える。
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