只今、臨時ニュースが入りました。本日15時頃、アラン第一王子が婚約者であるイザベラ公爵令嬢に対し、卒業パーティーの最中に、婚約破棄を宣言したとのことです。
「繰り返します。本日15時頃、アラン第一王子が婚約者であるイザベラ公爵令嬢に対し、卒業パーティーで婚約破棄を宣言したとのことです。商工会長のギルドンさん、この衝撃的なニュースをどう捉えられますか?」
「いやあ、これは驚きですね。情報が事実なら、国の将来を揺るがす大事件ですが……婚約破棄の理由について、アラン殿下は何と仰っているんですか?」
「こちらにはまだ伝わっておりません。現場の取材記者によりますと、卒業パーティーの会場で、突然壇上に現れたアラン第一王子はイザベラ公爵令嬢を指差し、婚約破棄を宣言したとのことです。傍らには別の女子生徒を連れていたとの情報も入っています」
「ちょっとまずいんじゃないですか。王太子教育を受けていらっしゃる殿下に限って有り得ないとは思いますが、まさか痴情のもつれなんてことになったら、王室の歴史に泥を塗ることになりかねませんよ」
「全く……学園の風紀が乱れているという問題について、私は以前から指摘していたんですよねえ」
「確かにゲコクジョー男爵は、お嬢様が現在学園に通っていらっしゃるということもあり、番組内で何度か風紀面についての問題提起をされていましたね」
「私の父親も学園に勤務しているのですが、学園側としては近年、階級差別解消やジェンダーフリー化に向けた世論の声が大きくなっている中、貴族特有のマナーについての見直しを行っているようなんです。ただ、それが裏目に出てしまった可能性はありますね」
「ギルドン商工会長、補足情報をありがとうございます。まだあくまでこちらには婚約破棄を宣言したという情報しか伝わっておりませんので、理由については明らかになっていませんが……」
「……おっ、只今、新たな情報が届きました! アラン第一王子の宣言内容が判明しましたので、お伝えします。『アラン第一王子の名において、イザベラ公爵令嬢との婚約を破棄することをここに宣言する! なぜならば、お前が私とルイズ嬢との間に育まれた真実の愛に嫉妬し、私達の関係を引き裂くために悪辣な手段を用いて、彼女を害そうとしたからだ!』以上が宣言内容とのことです」
「……ひょっとして卒業パーティーの余興なんじゃないですか? いくら何でもこの内容は酷すぎるでしょう。子供のごっこ遊びじゃないんだから……」
「記者からの注釈で、『信じられないことですが至って真剣な表情と声音で宣言していらっしゃいました』とあります。……あれ、ゲコクジョー男爵……ちょっと! どこへ行かれるのですか!?」
「そういえば、男爵のお嬢さんの名前ってルイズだったような……」
「……ええ、視聴者の皆様、失礼しました。事情によりコメンテーターのゲコクジョー男爵がスタジオを退出されました。……あっ、ここで続報が入りました。アラン第一王子の婚約破棄を受け、イザベラ公爵令嬢が事前に国王陛下より賜った勅書を読み上げたとのことです」
「まるで小説のような展開ですねえ。何だかちょっとワクワクします」
「ごほんっ。不謹慎ですよ、ギルドン商工会長」
「それでは、勅書の内容を読み上げます。『アラン第一王子には廃嫡を言い渡し、ルイズ男爵令嬢と共に国外追放を命じる。また、彼女と密かに関係を持ち、学業成績に便宜を図っていたとして教員のムトゥリー子爵にも10年の懲役刑を…』」
「……おい……嘘だろオヤジ……」
「あっ…………度々申し訳ございません。事情によりギルドン商工会長が退席いたしました。ええ……では、引き続き勅書の内容を読み上げます。『さらにルイズ男爵令嬢に頼まれ、イザベラ公爵令嬢を貶めるために、虚偽の罪状をでっち上げたとして、二名の男子生徒、ルーカスとマーカスを退学処分』……ふざけんな!!! ……あのバカ息子が!!!……」
原稿を放り投げ、司会席から立ちあがり、どこかへ去っていくフルタティーアナウンサー。
さらに突然、無人のセットが縦にぐるりと回転し、ただの床が画面いっぱいに映し出された。
「待って下さいよ、フルタティーさん! やっぱりこういう時って、息子が起こした問題だとしても、親まで解雇されちゃうんですかね?」
「ああ、ルーカス君って君の息子さんだったんだ……いやあ、お互い子供の教育どこで間違っちゃったんだろうね……ここは国営放送だし二人とも確実にクビだろうな……」
「せっかく念願のカメラマンになれたのに最悪ですよ……僕は辺境で暮らす両親の農園で働くことになりそうです」
「え~、じゃあ俺も一緒に働かせてもらえるようお願いしてくれない? マーカスは勘当するとしても、別れた妻への慰謝料も残ってるし仕事ないと困るんだよ」
「もちろんいいっすよ! カメアシ時代からフルタティーさんにはお世話になっていましたし……」
徐々に遠ざかっていく二人の話し声。
そしてスタジオには誰もいなくなった。