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甲賀忍者、甲子園へ行く2《甲子園編》  作者: 山城木緑
三回戦 剛vs剛 帝東高校
91/91

9

 月掛は初球から難なく送りバントを決めた。悠々と犬走が二塁へ進み、ベンチで月掛はハイタッチで迎えられた。副島とハイタッチを交わすとき、月掛は口を尖らせた。


「犬走さん、走っても良かったのに。俺、打ちたかったー」


「まあ、犬走も慎重を期したんやろ。初回の入りはこれでええ」


 ハイタッチを終えて座ると、月掛はグラウンドに目をやった。

 打席に入った居合の構えの桐葉が佇んでいる。ネクストバッターズサークルには、いつもより明らかに気合いの入っている道河原が控えている。


「高校通算本塁打かなんだか知らねえけど、俺らのクリーンアップの破壊力のほうが上だっつーの」


 打席の桐葉に、ほとんど隙はない。打撃も守備も、野球部に所属したのは最後の最後であったが、センスは群を抜いている。

 だが、そんな桐葉にも弱点はある。いわゆる、初物に弱いという点だ。

 どんな投手でも、桐葉はその相手の持つ《《間》》を読まねばならない。その間を身体に落とせば、桐葉ほど手強い打者はなかなかいないだろう。だが、桐葉にしか分かり得ないが、その間を読むのに最低1打席は使ってしまう。

 ゆえに、この帝東の平凡な投手である竹内についても、桐葉はしっかりとボールを見ることに努めた。

 2ボール2ストライクからの5球目だった。

 え? と、思わず月掛が声を出した。なんでもないような縦のカーブを見送り、桐葉は静かに三振し打席を離れたのだ。

 がっくりと月掛が下を向く。


「桐葉さん、今の打てたっしょ。もったいな! 俺バントしたのにもったいなー」


 柳のように桐葉がベンチに腰かける。


「……敢えて、だ」


「何の敢えてですのん? 1点でも多く取らんと。相手はなかなかの打線やねんし」


 桐葉は月掛の言葉にもどこ吹く風とでも言うように、真っ直ぐ前を見据えている。


「この試合、必ず勝つ。そのためだ」


 桐葉の目線の先、ゆったりと打席に入る道河原がいる。月掛には分からない、剣士の勘が働いているのだろうか。桐葉の目はふざけているようには見えない。それどころか、冷静な桐葉が燃えるような目をしている。

 でも……。月掛は道河原へ目を向ける。桐葉さんより向こうのほうがすごいことになってるな。


 道河原が四本のバットを持って素振りをしていた。バット同士が悲鳴をあげるようにぶつかり、空気を切り裂く音が球場に響いた。

 大炎を起こしている。

 道河原は怒っていた。

 長年、龍造寺を倒すためだけに生きてきた。龍造寺のいる帝東を倒したい。そのために野球に打ち込んできた。

 昨晩の屈辱が甦る。自分だけなら良かった。許せた。だが、この尊き仲間とともに辱しめを受けた。道河原には、それが一番許せなかった。

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