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8月16日。大会九日目。第二試合。
一塁側 滋賀代表 甲賀高校
vs
三塁側 東東京代表 帝東高校
「諸君! 三回戦である。いざ、戦いに出る者の名を申し上げよう」
昨日のミーティングの時間ではすっかり就寝していた橋じいが、詩吟のような調子でスタメンを発表していく。昨晩のいざこざなど橋じいは全く知る様子もない。
「いちばあぁぁんん、せええんたあぁぁあーあ、いぬぅばぁしりぃぃ……」
なんだなんだとベンチ上から、その詩吟に向けて観客が首を伸ばしている。
「先生……あの、先生。時間、ないです」
伊香保が何とかその調子を止めてくれた。
さあ、三回戦。いざ、尋常に。
先攻 甲賀高校
1 センター 犬走和巳
2 セカンド 月掛充
3 ショート 桐葉刀貴
4 ファースト 道河原玄武
5 レフト 副島昌行
6 キャッチャー 滝音鏡水
7 サード 蛇沼神
8 ピッチャー 白烏結人
9 ライト 東雲桔梗
後攻 帝東高校
1 セカンド 佐藤
2 ライト 楡木
3 レフト 芳岡
4 ファースト 龍造寺
5 キャッチャー 東
6 サード 髙橋
7 ショート 枝野
8 センター 吉田
9 ピッチャー 竹内
甲賀高校は変則的だった初戦のオーダーから、いつものオーダーに組み直してきた。
先発は白烏。
藤田も考えられたが、初戦で3イニングを投げ中1日ではスタミナのない藤田では怖さがある。何より、今大会1、2を争う強力打線の帝東を抑えるならば、やはりスピード、キレともに大会屈指の投手である白烏だ。
対する帝東もベストオーダーを連ねた。
一番の佐藤、二番の楡木は出塁率が高く、小技も利く。その後に控えるクリーンアップは、高校通算本塁打68本の三番芳岡、そして大会ナンバーワンスラッガーの龍造寺謙信は、既に高校通算本塁打記録更新まであと1本としている。五番の東は甲子園に来て既に2本のホームランを放ち、敬遠された龍造寺の後にきっちりと塁上を掃除している。超強力打線である。
甲賀ナインが鋭い眼光で帝東ベンチを睨む。昨晩の無礼など無かったかのように、帝東は淡々とキャッチボールを終えた。ベスト8の椅子をかけた一戦は、試合前から火花が散るひりひりしたムードを醸し出していた。
「犬走っ、輪に入れ」
先頭打者の犬走がネクストバッターズサークル付近に離れているのを、副島は呼び寄せた。
がっちりとお互いの肩を抱き、甲賀ナインが円陣を組む。そこへ犬走も輪に入ってくる。
「お前ら、昨晩のこと忘れんな。帝東は俺らを下に見とる。見せつけるぞ、甲賀魂をっ。プライドをっ! 勝つぞ、甲賀!!」
おおおおおおぉ!!!
甲賀10人の野太い声が甲子園の空に響く。
今大会、久しぶりの優勝を目指す東の強力打線、帝東。対するは、黒いユニフォームを身に纏い、不思議な野球を繰り広げるたった10人の初出場校、甲賀。既に観客席は満員に近い埋まりかたをしていた。
かちわり氷を売る声、隣と楽しそうに話す声、管楽器を調整する音……甲子園球場の試合前は色んな音が鳴り響く。この音たちがこの試合ではかき消されていくことになる。グラウンドに響き続ける金属音によって。




