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2階の大広間に鬼の形相をした副島と道河原が戻り、ナインはその気配に多少なりとも畏いた。
「……みんな。明日の試合、絶対勝つぞ」
低い副島の声がナインの耳にずしりと届く。副島が出す低い声は怒りの証拠だ。
「どうした、副島。何があった?」
滝音が問う。それには、副島以上に顔を紅潮させた道河原が応えた。
「帝東の龍造寺が来よった。白烏、藤田、俺らなめられてんぞ。あの野郎、わざわざこんな時間に、俺を敬遠するな、などと言いに来おった」
なにいっ!
これにはさすがに全員が反応した。伊香保すらも顔をピクピクさせている。
「副島、ほんとか?」
滝音が副島に訊ねると、副島は首を縦に振って認めた。
珍しく、桐葉が立ち上がった。
「……情けない」
皆が立ち上がった桐葉を見上げる。
「……情けない? 刀貴、何のことだ?」
白烏が、目を閉じたまま立ち尽くす桐葉に問う。
「……分からないか。それならば結人、お前も情けない」
「あ? 何やと?」
「情けないと感じたのは、俺。そして、ここにいる全員だ。相手に逃げるなと言われたんだぞ。どういうことか分からないか。相手は俺たちを弱いと認識している。そういうことだ。相手に腹を立てるな。まずは我が身を憂え」
ここまで桐葉が喋るのも珍しい。そして、ぐうの音もでないほど、桐葉の言葉は至極まっとうなものであった。
「そうだね。その通りだ」
桔梗の絞り出した答えがそれを物語っている。
「伊香保……続けてくれ。明日の試合、ぜってえ勝つ。みんな、明日絶対勝つぞ」
いつものでかい声ではない、低い副島の声にみんなが呼応した。
ぜってえ勝つ
なめやがって
何が優勝候補だ
みんなが口々に言いながら、真剣に伊香保の分析に耳を傾けた。
その中で、道河原だけはいつもと違い、静かに伊香保の話を聞いていた。メモを取り、相手投手の投球スタイルを食い入るように見つめていた。
桔梗は時折、そちらに目をやっていた。メモを取る手が震えているのが分かる。あの道河原が何も言わず、心の底から震えている。
……何か、言われたんだ。桔梗は悟った。
桔梗は、恥ずかしそうにまわしを締めて稽古に励んでいた道河原を見たことがある。恥ずかしそうなのに、それでも真剣に稽古に打ち込んでいた。それは龍造寺謙信というライバルに勝つため。それだけのために道河原がずっと努力してきたことを、桔梗は月掛から聞かされた。
バスに乗らずにじっと龍造寺を見つめていたあの目を思い出す。何年待ち焦がれたのだろう。明日、なんとしても道河原に勝たせてあげたい。
勝とう。みんなで勝とうよ、道河原。




