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龍造寺を見据えて微動だにしない道河原に、ぴとりと桔梗が触れた。
「道河原、みんな呼んでるよ?」
桔梗が出す甘い声は、男を掻き立てる。首もとに塗った香が道河原の鼻腔をくすぐった。
それでも、道河原は動かなかった。ずっとずっと、あの背中を追いかけてきたのだ。やっと届いた。六年前のリベンジだ。男は負けたままでは終われない。
燃えるような道河原の目を見た桔梗は、そのまま道河原の邪魔をせず、その表情を見上げていた。
これが、男の眼だ。純粋で、子供っぽくて、それでいて信念があって……。
いいな、男って。桔梗は道河原の目を羨ましく思った。
「バス……先に乗ってるね。道河原、ライバルの顔を目に焼き付けたらおいで。あたしたちと一緒に、みんなで勝とう」
道河原は桔梗を見ずにポツリと返事をした。
「……ああ。必ず勝つ。そのためにここへやってきたんや。東雲とか、お前らがいてくれたし、ここまで来れたわ。ほんまに感謝しとる」
よほど道河原が言いそうにない台詞に、桔梗はなんと返せば良いやら分からなかった。が、その言葉は桔梗の胸に届いた。勝たせてあげたい、と。
甲賀高校にとっての甲子園第二戦。この三回戦の相手は優勝候補にも挙げられる東東京代表、私立帝東高校。
1980年代後半から90年代にかけて東東京と言えばこの帝東高校であった。猛打で全国制覇も成し遂げた。だが、2000年代に入ると、名門帝東の名を甲子園で見る機会はめっきりなくなってしまった。
その帝東は、覇権奪還のため、全国から有望な選手をスカウトしていった。
その目玉が龍造寺謙信である。
相撲界期待のホープを粘り強い交渉により帝東高校は獲得した。龍造寺の入学が決定的となるや、他のめぼしい中学生打者の獲得も達成していく。それが花開き、目下、帝東は今大会出場チームで一、二を争う強打のチームである。
その中心、四番の龍造寺謙信に闘志を燃やす道河原玄武。軍配はどちらに上がるのか。




