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アーーーーーーー
試合終了を告げるサイレンが甲子園に響いた。観客からの拍手がグラウンドの選手たちに降り注ぐ。今大会唯一となる初出場校同士の対戦とあって、常連たちは立ち上がって手を叩いていた。それは、福岡高校へ向けての「またここに戻ってこいよ」という激励の拍手でもある。
副島が山﨑へ寄っていった。山﨑が笑顔で出迎える。
「良い試合をありがとう」
「こちらこそ。まさか1点も取れないとは思わなかった。優勝してくれ」
「あぁ、約束する」
がっちりと握手を交わし、互いにすぐ隣で握手を交わすチームメートを覗き見た。甲賀の滝音と福岡の鉢谷が握手しながら長く話している。
「僕は出雲の鉢屋衆の分家なんだ。僕は野球なんて縁もゆかりもなかったんだけど、君たち甲賀本家や伊賀や風魔の名前を見て、腕試しをしたいと野球を始めた。やはり甲賀には敵わなかったけどね」
「いや、君のボールを打てたのはうちでも一人、二人だよ。あれは打てない」
鉢谷は清々しい表情を浮かべている。
「あの四番打者は驚いた。甲賀にはあんな術を使う人もいるんだね。それより、君の頭脳に驚かされた。完敗だ」
滝音が照れ臭そうに頭を掻く。
「いやいや、福岡高校さんの戦略に燃えてしまった。良い試合をありがとう」
再びがっちりと握手を交わして、互いにベンチに戻る。
もう野球をやることはないであろう鉢谷は青い空を見上げ、ふと思い出したように振り向いた。
「あ、あとさ……」
「え?」
「三番の人……くノ一だよね?」
滝音が片目をつむってごめんと手を挙げた。
鉢谷が笑う。隣の山﨑が驚いていた。鉢谷の笑顔など見たことがない。
ベンチ前に福岡高校ナインが整列する。マネージャーは顔をぐしゃぐしゃにして泣いている。ナインは顔をしっかりと上げて皆、笑顔だ。敗けに悔いなし。そんな表情だ。
「鉢谷、ありがとうな。お前のおかげでここに来れた。無理に誘ったけど、お前のそんな笑顔を見られたから良かった」
鉢谷が山﨑へそっと返事をした。
「僕こそ誘ってくれてありがとう。でも、山﨑。この試合、僕らは相手の反則で敗けたのかもよ」
「は? どういうこと?」
「ふふ、内緒だけど」
山﨑が首を傾げる。それを鉢谷が見て笑う。
ずっと福岡高校野球部は不祥事の怨念を背負って活動してきた。人気もなく、いつも地区予選一回戦負けの屈辱を味わってきた。
今日、この甲子園球場には歴代の主将たちが集っていた。敗れたが、歴代主将たちは立ち上がっていつまでも拍手を送っていた。山﨑らナインはスタンドへ深々と頭を下げた。
もしかしたら、この球場のどこかに、いつかのあのエースが観に来ていたかもしれない。彼はやっと、この日で罪を拭えたかもしれない。晴れ晴れと甲子園球場を後にする後輩たちの背中を見て。
大会七日目。第一試合。
甲賀3-0福岡
甲賀高校、初戦突破!




