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22

 試合は、九回裏に進んでいた。

 白烏の速球は唸りを止めず、最後の打者、山﨑を迎えている。カウントは2ボール2ストライク。


「負けん。俺らの夏をここで終わらせん」


 山﨑は唇の端を噛みながら、来るボールに集中する。だが、今、山﨑には白烏のボールが見えていない。

 前の八回裏。鉢谷の粘りが奇しくも白烏を目覚めさせていた。滋賀県大会決勝の一度しか投げていない『閃烏せんがらす』。このボールを機に白烏の集中力が極限に達していたのだ。


「山﨑っ!」

「打てっ!」

「キャプテンッ!」


 悲痛にも似た福岡高校ベンチからの叫びと、アルプススタンドに駆けつけた女子生徒たちのすすり泣きが混じり合う。

 打席の山﨑は、追い込まれて負けたくないという意地と、なんとも言えない安らぎの間にいた。

 負けたくない。夏を終わらせたくない。だけど、俺は今、なんという素晴らしい空間にいることか。ボールが見えない投手なんて、幼い頃から一度も経験したことがない。やっぱり、甲子園は最高だ。負けたくないが、ここに立てたことに満足している自分がいることにも嘘はつけない。

 ふふ。

 ひとつ、山﨑は笑った。その笑顔に白烏も気づいた。

 相手のキャプテン……。頭良さそうやけど、なんだか副島に少し似てる。このキャプテンがチームを作って、ここまで来たのだろう。


 良いチームだったぜ、福岡高校。

 仕舞いだ。

 強かったばい、甲賀高校。

 まだ、終わらせん。


 打ってみろ、これが俺のストレートだ。

 投げてみろ、これが俺の人生最高のスイングだ。


「甲賀流白烏家 閃烏っ!」


「福岡高校野球部、俺の誇りだっ!」


 ブラスバンド部員たちは顔を真っ赤にして、最後の力を振り絞っていた。最高で最大の音量の中、それでもその音は甲子園球場の誰の耳にも届いた。滝音のミットが弾ける音だ。それほどの音だった。


 ストライーーーック!

 

 ゲーム、セット!


 山﨑が天を仰いだ。見上げた空は目一杯に青かった。それは無限に続くような空で、いつか見上げた少年時代の空とおんなじ青さだった。そうだ、終わらない。俺たちは、この甲子園という地を踏んで、また歩むのだ。最高の仲間とまたこの同じ青のもと、人生を歩むのだ。終わりじゃない。なぁ、みんな。

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