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 白烏のストレートが唸る。

 ぎこちないながらも鉢谷がバットに当てる。

 どちらも、真上に上がってきた太陽にじりじりと焼かれている。白烏と滝音のバッテリーが優勢なはずなのに、鉢谷のバットはいつまで経っても空を切らない。


 滝音の出すサインに白烏は首を振った。滝音は不思議と空振りしない鉢谷を最大限に警戒している。その答えがスライダーでの仕留めだったが、白烏は違うと判断した。


『鏡水、違う。出し尽くすぞ。礼には礼を、だ』


『分かった。終わらせよう』


 滝音は爪先を黒土に突き刺した。思いきり大地に根を張る。

 鉢谷は滝音が大地を踏みしめる音を聞いた。

 仕留めにくるな。それでも僕は当てる。僕は福岡高校の希望を繋ぐ。僕なんかがこの勝負球を当てられれば、皆も打てるという希望を持てる。皆なら、逆転してくれるかもしれない。


 白烏に湯気が立つ。いや、白い炎か。太陽の熱気より熱い気流が甲子園球場に渦巻く。


「初戦をあんたたちとやれて良かった。ここであんたを打ち取る。終わらせよう」


『甲賀流白烏家 閃烏せんがらす


 まさに、閃光が駆け抜けた。鉢谷がバットを振ろうとした直後にその閃光は自分の前を通りすぎたようだった。滝音のミットが爆発するような音をたてる。


 ス、ストライーーーク!!!


 ブラスバンドが一瞬止み、観客も両軍ベンチもほんの一瞬だけ無言になった。

 鉢谷が白烏を見つめている。白烏も鉢谷を見つめる。無言の中に互いを認め合う空気が流れていた。

 拍手が鳴っていた。甲子園で拍手が打たれるのは、怪我をした選手が戻ってきたり試合終了時くらいである。三振のシーンで拍手が鳴るのは極めて珍しい。それだけ、鉢谷の粘りは見事で、三振に斬ってとった白烏の燃えるような速球は観客の心を打ったのだった。

 ただ、裏返せば、このシーンがこの試合のクライマックスだと言えた。この勝負の結果は、甲賀の強さが福岡高校の奇跡の逆転を許さない証明であったように思う。ベテランの高校野球ファンたちはそれを感じとっていた。得てして、滝音のこの勝負を分水嶺と見た読みは当たっていた。

 その後の打者はもはや白烏の投じる白球を追うことすら叶わなかった。

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