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 マウンドの白烏は巨人に見えた。希望を跳ね返すような、大きな壁として再び福岡高校の前に立ちはだかる。


 打席には奇しくも鉢谷が入る。このまま終われば、最終打席となる。

 福岡高校ベンチは声をあまり出さないでいた。あまり喋らない鉢谷に対して遠慮しているわけではない。鉢谷はこれまで打席で一度もバットを振ったことがないのだ。

 理由があった。

 まず、鉢谷はバッティングを習う時間がなかったこと。それに、甲子園に連れてきてくれた鉢谷をピッチングだけに専念させたいこと。この二つだ。

 体力に恵まれているとは言えない鉢谷に無理をさせたくない。よって、打席の鉢谷に声をかけないでおいてあげたい。それが、福岡高校ベンチの意思である。


 鉢谷は構えも肩にバットを置いたまま、膝を曲げるでもなく、突っ立っている。


『……やはり最後までこの感じか……』


 横目で打席の鉢谷を見やり、滝音は白烏にストレートのサインを出した。すぐに頷いた白烏が目の覚めるようなストレートを投げ込んだ。


 ストーライクッ


 さすがにこの鉢谷は安パイだ。打つ気すらない。迷わずに滝音はストレートを要求する。


 カインッ!


 よほどスイングとは呼べない代物ながら、鉢谷はバットを振った。ころころと滝音の足元をボールが転がっている。


「……鉢谷」


 山﨑が、福岡高校ナインが、ベンチから乗り出して鉢谷を見つめる。


「僕は投手で精一杯だ。打つことは体力面を考慮してやめておく。僕が抑えるから、打撃は君たちでカバーしてくれ」


 入部間もない鉢谷は、そんなことを言い放って以来、ほんとに一度足りともバットを振ったことはなかったのだ。その鉢谷が不器用ながらバットを振って、あんな超速球をバットに当てている。


「鉢谷っ、頑張れ!」

「鉢谷、打てー」

「鉢谷、当たってる当たってる!」


 ベンチの声とともにスタンドも鉢谷に大歓声を送る。

 鉢谷が白烏を睨む。つい数ヶ月前に図書室の隅っこにいた学生とは思えない。魂が宿った目をしている。

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