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伊香保は打席に向かう滝音を見ながら、少し顔を赤らめるようにして続けた。
「うん……ほんとに滝音くんはすごいわ。おそらく……あの時、スクイズを外して、わざと三塁ランナーを残したの」
「は? どういうこったよ? あそこのスクイズ失敗でランナーも刺せたらそっちのが楽やろ?」
ううん、と伊香保は首を横に振った。
そう、滝音はわざとスクイズを大きく外しすぎたのだ。
あの場面、スクイズ失敗で三塁ランナーまでアウトとなれば、打者は吹っ切れるしかない。三塁ランナーがアウトにならず残ることで、逆に打者には責任感が残る。ワンアウト満塁で、スクイズを失敗した。でも、最悪のケースは免れた。ならば、打つしかない。これは、吹っ切れて来た球を思いきり打とう、という心意気とは全く違ってくる。
よって、手を出す。
最後にダブルプレーに斬ってとった七番打者は、おっつけて一、二塁間を破る打撃が得意と伊香保のデータにあったのだ。それを滝音は利用し、月掛の守備位置を巧みに操ってダブルプレーに仕留めたのだった。
「んじゃあ、伊香保はそうなるって分かったから、もう見なかったんか?」
道河原が訊ね、月掛も身を乗り出す。
「月掛くんがわざと一、二塁間を空けたでしょ? そこでもう狙いは分かったわ。そこに打たせるようにして、月掛くんが素早く守備位置を戻しダブルプレーをとった。そのはずよ」
月掛は大きく縦に首を振った。
「その通りっす。たぶん滝音さんからの指示で、藤田が俺に後ろ手にサインを出したんす。二塁ベースに寄れって。あ、これ、わざと空けるやつだなって思って、投げたらすぐ守備位置戻したんすよね。練習でよく滝音さんにやらされたし」
「うん、わたしもその練習よく見てた。月掛くんと桐葉くんがわざと塁間を空けて、そこに誘い込んで打たせる練習。月掛くんの練習の賜物ね」
「そっすね。天才だからできたっすね。たぶん玄武さんじゃできねえし。てか、そもそもベンチに下げられてるし。ぷぷっ」
思いきり道河原の拳が月掛に降り注いだ。




