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藤田の表情が強張っている。
ここで滝音の目が、また力強いものに変わったのだ。鋭い。マスク越しにもその眼光を感じられる。
『藤田の制球があればできる。ここだ。ここに投げてこい』
滝音から出された5球目のサインは外角へのストレート。必ずストライクコースのギリギリを狙え、ときている。強調するようにミットを右手で叩きながら、鷹のような目を藤田へ刺す。ボール1個分外れたら押し出しだ。藤田の額から冷たい汗が滴る。
と、構える滝音が突如として右手を上げ、何やら外野に向けて合図を送った。藤田はセットポジションにつこうとする動作を止めてプレートから足を外した。滝音が合図をしたライト方向へ顔を向ける。
「藤田くん! 大丈夫! 大丈夫だよ!」
それを見計らったかのように、ライトから桔梗の声が藤田の耳に届いた。
「桔梗さん……こんな甲子園みたいな大舞台に来てまで僕のことを……。TV中継で音を拾われてるっていうのに。もう、全国民にバレても構わないってくらい、僕のことを心配してくれてる……桔梗さん、頑張ります」
くるりと本塁方向へ向き直った藤田の目が燃えている。藤田にとって桔梗の甘い声の効果は絶大だ。
セットポジションながら力強く腕が振られ、外角いっぱいにストレートが突き刺さった。
ストライクッ、ツー!!
おおおおぉぉぉ! という地鳴りが今度は一塁側から響く。
福岡高校の六番打者は唇を噛み締めた。3ボールからの甘い真っ直ぐは確実に打てた。今の外角へのストレートはギリギリ過ぎて手を出せなかった。いつの間にか追い込まれている。
この六番打者が感じた通り、これは滝音の巧みな罠である。
そして、滝音がまず、この六番打者をオードブルとして平らげる。




