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 ディレクターだろうか、少し白髪が混じった頭髪を掻きながら、背番号7番の選手と言葉を交わしている。


「台本なんかはないし、そのまんまインタビューに答えてくれるだけでいいからね。練習も、いつものまんまで飾らずにしてもらえたら」


 まるまるの坊主頭から汗を垂らし、甲賀高校野球部キャプテン副島昌行そえじま まさゆきは、こくりと頷いた。


「そんなん慣れてないんで、それが助かります。ほな、とりあえずもうすぐグラウンド使えそうなんで、今から普通に練習させてもらいます」


 副島はくるりと振り返り、後ろで整列しているナインに向かった。


「おしっ、練習すんで。気合い入れてけよ!」


 ナインはどこか視線をさまよわせ、副島と目線を合わせずに、その向こうを見ていた。副島が視線の先を窺うと、すぐ後ろでカメラマンがうんしょとカメラを肩に担いだのが見えた。


「は、はいっ!」


 少しの間を置いて、一人が返事をした。二年生の月掛充つきかけ みつる。この生意気な二年生は普段、敬語を使ったとしても「っす」程度で、「はい」などという素晴らしい返事をしたことはない。初めて聞いた月掛の良い返事に副島は目を丸くした。


 月掛の返事からやや遅れ、目を閉じた者がぽつりと口を開いた。長い髪を風にくゆらせている。


「……承知した」


 バットを脇差しに、そのままカメラに対して斜に構えている。ほんの一瞬、目を開け、カメラが向いていることを確かめてまた目を閉じる。名を桐葉刀貴きりは とうきという。桐葉は甲賀一の剣士一族として、常にクールに振る舞う。

 齢17前後の甲賀者であれば、免許皆伝のため必死に修行に明け暮れる歳である。桐葉の実力は、この代の甲賀者の中で群を抜いている存在だ。

 だが、免許皆伝には至っていない。カメラを意識して、かっこよく映りたい(おそらくは刀を差し、斜に構える姿に自信を持っている模様)思いから、単刀直入に言えば思春期真っ盛りである。それが免許皆伝の邪魔をしている。


「承知したっ!」

「はいっ!」

「承知!」

「かしこまった」


 各々が今までしたことのない挨拶をして、グラウンドに足を踏み入れていく。皆、ちらりとTVカメラに目線を送っている。東雲桔梗しののめ ききょうなどはカメラにウインクしている。

 この東雲は女だ。髪を帽子に詰め込んで、たわわと実る胸をさらしで巻きつけて男のふりをしているくノ一なのだ。


「こら、バレたらどうすんだ」


 ひそひそ声で白烏結人しろからす ゆいとが桔梗を小突く。


「だってぇ、あのディレクターさん結構かっこよくない? 最近、ああいう大人の男の方が良くなってきた」


「……知るか、あほちゃうか」


 様子を見ていた副島は込み上げる怒りをギリギリのところで抑えていた。カメラが無ければ、全員並ばせて一人づつ平手打ちしてやりたいくらいだ。


「アホども。誰も彼も浮かれてやがる。こんなんやったら甲子園で赤っ恥かくだけや」

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