10
伊香保は不満そうに貧乏揺すりをする隣の道河原へ目線を上げた。
「道河原くん、落ち着いて。悔しさはあるかもしれないけど、道河原くんの出番はここじゃないわ」
道河原はぎろりと血走った目を伊香保に向ける。
「ベンチに下げられるなんざ、思ってもみなかったぜ。それはまぁ仕方ねえとしてもよ、どうすんだ、この状況? 満塁で藤田緊張しまくってストライク入らねえじゃねえかよ」
伊香保は道河原のその言葉に、不安と安心を織り混ぜたような微妙な表情を浮かべた。
「わたしにも分からない。大ピンチだとわたしも思う。でも、味方の道河原くんやわたし、球場のみんながそう思ってることに対して、滝音くんには何か考えがあるのかもしれない」
「はあ? わざと満塁で3ボールにしたとでも言うのか? そんなん、あり得ねえだろ」
「そうね。あり得ないと思う。あり得ないと思うからこそ見える道があるのかもしれない。滝音くんに一度だけお願いして、IQテストしてもらったの。本気でやってみてって。そしたら170超えてた。わたしなんかより、滝音くんはずっと天に近いところにいるから……」
道河原は頭に両手を回してベンチに凭れた。
「へっ、天才たちの考えることは分からん。ほんじゃ、滝音家のお手並み拝見といくか」
そんな二人が見据えるグラウンドで、藤田が笑ってしまうくらいに甘いど真ん中のストレートを投げ込んだ。思わず、道河原も伊香保も肝を冷やす。
ストライーーク!
バッターはど真ん中の甘いストレートを見逃した。
「満塁で3ボールなら、さすがに振らねえか。藤田、あいつマジで甲子園に飲まれてんな。完全に置きにいったストレートやぞ、今の」
道河原がほっと息をついて伊香保に言った。
「…………なるほど」
伊香保はそれだけ呟いた。




