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 結局、急遽登板した藤田は外へ大きく外すボールを4球、滝音に預けた。バッターの泉原がゆっくりバットを置き、手を叩きながら一塁へ向かう。

 ここから下位打線とはいえ、ノーアウト満塁。ヒットで同点、スクイズや犠牲フライの怖さもあれば、四死球も許されない。藤田が帽子を脱いで汗をぬぐう。


 藤田は返球された白球越しにキャッチャーの滝音を見つめた。肩は一応作っていたが、白烏さんが無失点でいるうちの登板は当初のプランにはなかったものだ。

 ……滝音さん、いったい何を考えているんだろう。


 滝音はマスク越し、真っ直ぐに藤田を見つめた。ゆっくりとサインを送る。外角へのスライダー。

 サインを受け取った藤田は首を振ることは無いが、随分と慎重な入りだなと感じた。スクイズ警戒ということだろうか。

 七回裏、ノーアウト満塁。福岡高校の六番打者へ初球のスライダーを藤田が投じようとした時、ピクリと打者がバントの構えを取った。藤田の指先がその動きに反応する。外角低めへ見事にコントロールされたボールを滝音が掴む。少し、外か。


 ボーーーール!!


 おおぉぉぉ。球場が微妙な判定にどよめいた。滝音が立ち上がって、大きく二度頷きながら藤田へボールを返す。

 藤田は戸惑っていた。滝音は頭が良くて素晴らしいリードをする。よって、藤田が滝音のサインに首を振ることはない。それなのに今日の滝音さんは、自分の目に向けて強い視線を送ってくる。必ず俺の言う通りにしろ。そうとでも言うような目だ。その目が出した2球目のサインは「低めに上手く外せ」だった。満塁でわざわざ2ボールに……。


 言われるままに、藤田が低めにストレートを放る。球審が心苦しそうに首を横に振った。


 ボール!


 滝音は胸に手をあてて、藤田に対し、落ち着け落ち着け、という仕草を送る。


「滝音さんがそこに投げろって言ってんのに……。落ち着けだなんて……。なに考えてんだろ?」


 思わず藤田はマウンド上で呟いた。

 甲子園のざわめきが増していく。押し出しがあり得る。そんな空気が広がっている。


「……よしっ、甲賀さんはもうこんがらがっとうわ。こっちの目論見通り、いや、それ以上ばい。あっちの二番手は準備ができとらん。可哀想やけど」


 福岡高校のベンチからそんな声が聞こえた。そんな中、マウンド上で藤田は呆気にとられていた。とんでもないサインが滝音から出たからだ。


『藤田、すっぽ抜けるようなとんでもないボール球を内角へ』


 滝音さん……。ノーアウト満塁で3ボールにするなんて。藤田はさすがに身体を強ばらせた。

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