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7回裏。
福岡高校の攻撃。打席にはこの試合、唯一のヒットを打っている福岡高校主将、山﨑が立った。
「あんた、頭いいよな。いわゆる野球脳ってやつ?」
山﨑が打席に入り、滝音に声をかけた。
「さぁ、どうなんだろうね?」
「滝音くん? やっけ? あんたの名前は全国模試でも見たことないけんね。野球だけ頭が回るってやつなんだろうな」
小さく滝音は笑った。
「訳あってね。そんなところに名前が載るわけにはいかないんだ。本気で試験に臨んだら、全国で五本の指には入ると思うけどね」
「はは、言うね。じゃあ、こっからは頭脳勝負させてもらうばい。逆転させてもらうけんね」
山﨑は三塁コーチャーをちらりと見て、サインを確認した。滝音もそちらを確認する。ヘルメットの鍔や肩や肘、いたるところを触りながら、目線をところどころに動かしている。サインが長い。明らかに前の回までと違っていた。
この回、確実に何かを感じとり、何かを仕掛けてくる。
マウンド上の白烏は落ち着いていた。
ここまで6イニングを投げ、被安打1、与四死球9、失点0。四死球は多いが、ここまで踏ん張っている。四死球は試合序盤に出したものが多く、コントロールは徐々に安定してきていた。被安打1は特に自信になっていたようだ。
「甲子園って投げやすいぜ。だいぶ慣れてきた」
マウンドの土をぐっと踏みしめる。左足を踏み出す位置を確認する。踏み出す足の位置さえ気を付ければコントロールのブレもなくなってきている。そこさえ意識すれば、この試合は藤田を頼らずともいける。
滝音がパァンとミットを鳴らした。守備陣が腰を落とす。伊香保がベンチから警鐘を鳴らしたのを、甲賀ナインはしっかり受け止めている。油断は微塵もない。
山﨑はバットを短く持ち、グラウンドを見渡していた。足の爪先がバッターボックスの土を弾いている。早いリズムで何かを確認するように。




