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甲賀高校対福岡高校の一戦は、蛇沼による目の覚めるようなタイムリーツーベース以降、2-0のまま膠着していた。
……まずいな。あっちはアクションを仕掛けてくる……。
滝音は紙コップのスポーツドリンクを飲みながら、そう感じていた。
イニングは淡々と進み、試合終盤に差し掛かる七回裏の守りが始まろうとしていた。
たった2点差とはいえ、制球の定まらなかった白烏が何とか抑えている。中盤に向こうのキャプテン山﨑にヒットを打たれたものの、ここまで完璧なディフェンスをこなしていると言っていい。
それでも、滝音はこの七回裏が始まる前、一筋の冷たい汗をかいていた。
ベンチに佇む伊香保も同じ感覚を抱いている。やはり、まずいわ。伊香保は両手を口のそばにあてて声を挙げた。
「みんなっ! この回、気をつけて!」
伊香保はそう叫んで相手ベンチを見た。
冷静だ。伊香保はそう感じた。
二点差で負けていて、相手は冷静。焦りがない。それは、予想の範疇という裏付けだ。
滝音と伊香保。実は甲賀の頭脳であるこの二人が共通して気にしている事案があった。
五回裏が終わったグラウンド整備の時間、甲賀ナインは水分を摂りベンチにもたれていた。回復してから伊香保の試合後半へのアドバイスに耳を傾けた。一方、三塁側ベンチには、全く違う光景が広がっていた。
全員がこちらに背を向けて、おそらく作戦を練っている。マネージャーが予めスポーツドリンクを用意しておいて、それを片手に時間の許す限り議論を重ねているようだった。
福岡高校は偏差値が70を越える全国でも指折りの進学校だ。理論が揃えば戦術理解は早いだろう。このグラウンド整備の時間、両軍の時間の使い方に滝音と伊香保は少し嫌な印象を抱いていた。
明確になったのは、六回裏の福岡高校の攻撃だった。福岡高校打線はツーストライクに追い込まれるまで一切手を出して来なかったのだ。明らかに何かを確認するように、六回裏の攻撃を敢えて捨ててきた。
ビジネスではどこでも使うPDCAサイクルというものがある。
プラン→実行→チェック→アクション。このサイクルを回せばミスは少なくなり、成果が現れやすい。
おそらくは、この福岡高校は事前にうちを分析し、試合序盤から中盤にかけて組み立てたプランを実行したのだろう。それでも、何とか白烏が踏ん張って抑えられている。
それは白烏の弱点であるコントロールに活路を見出だしたかったが、大崩れしなかったのと、ストライクコースに投げられると福岡高校ナインでは手の出る代物でなかった。そうであったはずだ。
たが、五回裏のグラウンド整備の時間で福岡高校はチェック体制に入ったのだ。実行したものをチェックし、六回裏にその検証を行ってきた。
ということは、この七回裏、福岡高校はアクションをやってくる。
検証をもとに。




