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甲賀忍者、甲子園へ行く2《甲子園編》  作者: 山城木緑
初戦 文武両道 福岡高校
59/91

32

 迷っていた副島が蛇沼へ声をあげた。そのまま拳を突きつける。


 頼んだ。打て、蛇沼!


 蛇沼がヘルメットをしっかりとかぶり直した。視線の先にベンチから大声をあげている藤田が目に入る。クラス中から忌み嫌われ、希望すらなかった蛇沼を救ったのは野球というスポーツであり、この副島と藤田が誘ってくれたからだ。この試合、おそらくこのナックルを高確率で打てるのは僕のみ。

 恩を返すよ、副島、藤田、みんな。


 蛇沼の顔が変わっていく。キャッチャーも鉢谷も、福岡高校ナインがその顔を見て怯む。


 蛇だ。


 橋じいの気まぐれかもしれないけど、この試合、四番を任せてもらった。こんなに人に頼られるのは初めてだ。蛇沼は顔こそ蛇のようだが、心は嬉しさでいっぱいであった。

 難しいボールを桐葉くんが打ってくれた。東雲さんも(なんだかずるい術使ってそうだったけど)、出てくれた。

 ここは四番としての責務を、僕は果たす。

 低く、飛びかかるような姿勢でバットを構えた。


『甲賀流蛇沼家 蛇身蚕食じゃしんさんしょく伍之躯ごのむくろ 錦蛇にしきへび


 誰もが打てない蝶の舞。

 ひらひらと舞いながら、無惨にも軟体の獣の前へと進む。

 優雅に舞うは束の間。

 その巨躯を誇る禍々しい蛇の餌となる。


 カキイイイイィィィィィン!


 スタンドの観客がこの試合初めて外野の向こうへと首を向けた。みるみると打球が伸びていく。レフトが思いきり飛び上がりグローブを伸ばすがとても届かない。

 惜しくもフェンスオーバーとはならなかったが、フェンス上段に当たった打球がグラウンドに落ちた時、桐葉は悠然と、桔梗が手を叩きながら本塁へ駆け抜けてきた。地鳴りが甲子園球場を襲い、一塁側スタンドはお祭り騒ぎだ。

 ベンチで道河原と月掛が、犬走と白烏が抱き合っている。ベンチ奥で何事かと橋じいが目を覚ましていた。


 甲賀高校、四回表に蛇沼のタイムリーツーベースで2点を先制!

 優しい顔に戻った蛇沼が朗らかな笑顔をベンチに送っていた。



 その後、副島、道河原、白烏と全くボールに当てられないまま三者三振に倒れるも、甲賀は試合中盤に防御率0.00を誇る鉢谷から貴重な2点をあげた。ベンチに戻った蛇沼を、皆がヘルメットを叩いて祝福していた。


 福岡高校ナインは打力に劣る。コントロールに不安さえなければ、白烏を打てる打力はない。この2点は大きい。誰もがそう思った。


 だが、伊香保は見ていた。

 ベンチで肩を組み、この2点をどう返すか考えて方策を練る福岡高校ナインの姿を。

 伊香保は自分の作ったデータをはらりと捲った。1ページ目は福岡高校の概要だ。伊香保は紹介程度に作ったその1ページ目を読み返して、背筋に嫌な感覚を憶えた。


 試合はその後、福岡高校は四死球でチャンスを作るも活かせず、甲賀高校は蛇沼がまたしてもヒットを放つも後続は続かず。淡々と中盤戦を消化していた。


 伊香保はまた資料に手を伸ばした。

 この試合、果たしてこのままいくのだろうか。その1ページ目に書かれた文字を見て、そう思う。


 福岡県立福岡高等学校。偏差値72。

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