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甲賀忍者、甲子園へ行く2《甲子園編》  作者: 山城木緑
初戦 文武両道 福岡高校
52/91

25

 確かにふらりとひらりとボールが舞っている。副島は両目を見開き、ギリギリまでボールを見極めた。

 っし、当たる。あとは一塁手、三塁手に捕られないように、投手前にしっかり転がす。

 と、確実にとらえたはずのボールが最後に回転するようにストンと落ちた。


 ストライィィク。


 何だ、今のは。

 副島はホームベース上を見つめた。甲子園の黒土が細かく円を描いている。その後ろでキャッチャーが、しっかりとバウンドしたボールを腹にあてて前にこぼしていた。


卍巴飛翔まんじともえひしょうという蝶の舞の一種だそうだ。俺も知らんが、鉢谷は操れる。あいつの球は簡単にバントなんてできんばい」


 キャッチャーは副島に落ち着いた様子で言った。

 これは伊香保のデータにもなかった。……どういうことだ? 副島は予期しなかったボールに戸惑い、ベンチを見た。

 ベンチの伊香保も戸惑っていたが、バックスクリーンに目を向けて、ひとつの仮説を瞬時に立てていた。

 この甲子園球場は、俗に言う浜風という海からの風と、六甲山から降りてくる山風という二方向からの風の影響を受ける。千葉のZOZOマリンスタジアムほどではないが、風向きがころころ変わるのが特徴だ。

 風向きが変わると、球場の中では海からの風と六甲山からの風が交じり合う。その対峙する風の衝突は小さなつむじ風を巻き起こす。

 この鉢谷はそれを感じとり、風向きが変わるのを待って投げたのではないか? その瞬時の対応力に舌を巻く。相手は頭がかなりキレる。相手は風の原理を知り、こちらは迎え撃つしかなければ、やはり不利だ。


「副島くんっ!」


 伊香保が臨時で副島にサインを送った。追い込まれるまでバント、追い込まれたらヒッティング。常套手段の策を確認し、副島は頷いた。

 だが……やはり迷いが生じると勝負事は難しい。


 落ちるのか、ただ揺れるのか……。それを迷いながら迎えた二球目。

 見極めた上に手を出した副島のバントは、結局落ちなかったボールの下を叩いてしまい、キャッチャーへの小フライとなった。

 悔しがりながらベンチへ戻って給水した副島の背後で、道河原のスイングが空しく3回響き渡った。

 

 蛇沼のツーベースから迎えた二回表のチャンス。結局、甲賀は活かせずにイニングを終えた。

 なかなかどうして。球速表示すら出ないボールではあるが、あまりにも変幻自在。そんな鉢谷の投球を前に、甲賀は沈んだ。甲賀にとっては、蛇沼という光明だけを覗かせた序盤となった。

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