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これが甲賀の四番か……。データにあったのと打順を変えた意図は……何だ?
打席で構える蛇沼は、あまりに四番らしくない。この奇策に福岡高校ナインは戸惑っていた。
「鉢谷、ひとつひとつ! 丁寧にいこうぜ」
山﨑からの檄に鉢谷が頷く。
鉢谷は変わらず、ただ宙へ送り出すように白球を手から離した。
ひらり、ふらり、くるり。
とらえどころのない軌道で蛇沼のもとへと向かう。
ボーーール!
球審は僅かに低かったボールに首を振った。蛇沼は同時に縦へ二回、首を振った。
「なるほど。…………なるほどな」
小さな声に反応したキャッチャーが蛇沼を見ると、キャッチャーは震えあがった。みるみる顔が変わっていく。口が裂けるように見える。……なんだよ、こいつ。
「鈍すぎる。蛇の動きにその動きではついていけまい」
声色まで変わっている。
キャッチャーは鉢谷へ向け、サインを送った。
『こいつ、不気味だ。ひとつ、外角へ外そう』
鉢谷は少し不満げな顔をしたが、頷いて外角に外すようなナックルを投じた。
ボーール!
蛇沼はマウンド上の鉢谷を見た。逃げるのか。そう伝えるような目線だ。
キャッチャーはこの蛇沼を歩かせても良いと思っていた。突然の四番抜擢といい、この打者は少し怖さがある。歩かせてでも鉢谷なら次打者以降を打ち取れる。またしても外すサインを送ったが、鉢谷は明確に首を振った。
僕の目的は伊賀や甲賀を知ることだ。逃げていては、何の意味もない。悪いが、勝負させてもらう。
「舞え、幻蝶」




