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白烏は単純だ。そこが滝音にとっては救いである。
肘と肩を開かずに、踏み出した足の爪先はしっかりと滝音に向かっている。糸を引いたようなストレートがミットに刺さる。
ストライーーークッ!
球審の拳が高く上がった。
三番打者のキャプテン山﨑は手も足も出ず、続く福岡高校打線のキーマンである古賀もバットに当てることはできなかった。スコアリングポジションまでランナーを進められたものの、結局は無失点でこの回を切り抜ける。
球速表示が出ないほどの遅いナックルを操る鉢谷と、球速表示は今大会屈指のスピードを誇るが危なっかしかった白烏。この対称的な両者の初回は結果的にゼロで終えることとなった。
動きは、甲賀高校から先に生まれた。
二回表。打席に四番を任された蛇沼が向かう。
「神さん、四番って変な感じやわ」
「せやね。蛇沼くんは四番感ないわ」
月掛と桔梗が、ザ・平均の体格である蛇沼の背中を見つめる。
「橋じいのボケが原因で負けたら、俺ぁ悔やんでも悔やみきれんぞ」
道河原が言い、ベンチ奥の橋じいは麦茶をちびちび飲んでいる。
「さぁ、災い転じて福と成すかもしんねえぞ?」
タオルで汗を拭う白烏が割って入る。桔梗が眉間に皺を寄せて訊ねた。
「えー、なんで?」
「だって、蛇って蝶食いそうやろ?」
「え……そんだけすか?」
「……あぁ、そんだけだ」
シーンとするベンチの端で滝音が笑った。
「はは、まあ、でもそうかもしれないぞ」
打席でバットを担いだ蛇沼にはどことなく余裕が見える。まだ、顔はいつもの可愛げのある顔をしている。




