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白烏は滝音を待つ間に、バックネット裏に目を向けていた。
何人ものスピードガンを構えた大人が見える。滝音が桔梗と話している頃、白烏には時間が余りすぎていた。このスピードガンの群れを見つけ、白烏は妄想に駆り立てられていた。
あれ、プロのスカウトたちや。どうしよ、俺のストレートとスライダー見たら、プロのスカウトたちすぐに挨拶に来るんちゃうやろか。俺、プロ野球選手になるんやろか。プロ野球選手になったらどうなんねやろ? むっちゃモテるんやろなぁ。1億とか平気でもらえるらしいもんな。ああ、鏡水はよ来てくれんかな。スカウトさんたちが俺のストレート待ってんねん。プロ野球選手や。モテモテや。鏡水、早く。
白烏は途方もなく舞い上がっていた。
いざ、座ってサイン交換をした時点で、滝音は異変に気づく。あれ、結人にやけてるな。大丈夫か、あいつ……。
とりあえずストレートのサインを出すと、食いぎみで白烏は頷いた。
白烏の両腕が天を指す。両腕が徐々に下がると同時、左足がマウンドからはみ出すほどに前へと出てくる。右腕から放たれたストレートは今大会イチの速度を記録した。
154km/h。
電光掲示板にその表示が出ると、アルプススタンドが震えた。人々の唸り声がマウンドに注がれる。
ボーーーール!
盛り上がるスタンドをよそに、滝音は苦笑いを浮かべていた。それもそのはず。球速は立派だが、滝音がこの154km/hのストレートを捕球したのは飛び上がってやっと届くほどのボールだった。
結人のやつ、完全に舞い上がってやがる。敢えて強めの返球を白烏のグローブへ突き刺した。
白烏はその強い返球に対する解釈を間違う。
なるほど、鏡水。もっと速く投げれるだろってメッセージやな。分かったわ。しっかり構えとけ、鏡水。
ワインドアップからの二球目、全身を使って投じられたボールに球場は更にボルテージを上げる。
156km/h。
うおぉぉぉぉぉ、と地鳴りのような音が白烏へ向けられる。




