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ツーストライクと追い込まれた桐葉は、明らかにバットを握る力を抜いた。
「何かしてくる。さすが、僕でも知ってる甲賀の桐葉家だね」
サードから山﨑が不思議そうに鉢谷を見ていた。
あいつ、何かぶつぶつ話してるけど楽しそうだ。まあ、それならそれでいい。無理矢理誘ってしまったと思っていたから。
鉢谷、存分にやれ!
鉢谷がボールを柔らかく持ち、宙へと放つ。
ふわり、ふわり。舞い落ちる枯れ葉のように桐葉の目の前へやってきた。
『甲賀流桐葉家 舞葉斬』
最後に重力とともに落ちようとする白球を桐葉が捉えた。バットが高速で白球を擦る。白球がバットの根元から先までを滑るように移動した。
強烈なスピンをかける桐葉の業である。滑らせたボールを最後に前方へ飛ばし、異様な回転がかかった打球は野手の手をすり抜けていく。バウンドも不規則な回転のせいで外野手が処理に戸惑う。
……はずだった。
「頭は良くないようだね。力学上、それは飛ばない」
再び鉢谷はグローブを構えずに呟いた。
「キャッチャー!!」
サードの山﨑がキャッチャーの頭上を指さす。キャッチャーはマスクを取り、真上に上がった打球をがっちりと掴んだ。
立ち尽くした桐葉にキャッチャーが声をかけた。
「君が怖い打者だと警戒しとった。でも、鉢谷は自信満々やったとよ。さっきの打ち方ば警戒する俺に、鉢谷は4本の指を出したん。①投球されたボールの速度・回転②バットの重さ・材質③インパクト直前のバットのスイング速度・軌道④バットに対するボールのインパクト位置。これが合わんと打球は飛ばんて。やけん、君は怖くなかって」
桐葉はその言葉を聞くと、表情を変えずにベンチへと戻った。
「当てたけどな」
慰めるように白烏が言うと、桐葉はそっとヘルメットを置いた。
「斬って斬れぬほど情けないものはない。敵は、強い。俺の力が足りない」
続いて、初めて三番に抜擢された桔梗は、犬走と桐葉とは違う感覚で打席に入っていた。
見渡す限りの人、人、人……。鳴りやまないブラスバンド。360度から集まる声。
桐葉の張りつめた剣士としての打席を見た後に、不謹慎だと理解しつつも、桔梗は感じていた。
どうしよ、この感覚……快感かも。




