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鉢谷がボールから手を離す。投げるではなく、手を離すという表現が合う。
……なるほど。
桐葉は迫りくる蝶のような舞に、ピクリと反応したがバットは抜かなかった。
ストライーーク!
打席で俯く桐葉の気配を月掛が感じとった。
「桐葉さん、何か試すつもりやわ」
副島が月掛の言葉に反応した。
「せやな。俺らの打線の核は間違いなく桐葉や。あいつが初見でどれだけ掴めるか、やな」
道河原がそこに割って入る。
「打線の核は俺やろがいっ」
「打順落とされたもんが言うな。お前はいい加減、変化球打てるようになれや」
「ちっ。飛距離は俺やけどな。ま、確かに、まだ今は桐葉が当てられんのを俺が当てられるわけないわ」
「あ、やっぱやりますよ。ほら、『水月刀』や」
投じられた鉢谷の揺れるボールを前に、桐葉が飛んだ。身体の軸をぶらさずに、垂直に飛ぶ。そこから、まるで刀のようなバットが姿を見せ、回転しながらボールに向かう。
『甲賀流桐葉家 水月刀』
客席のどよめきが聞こえる。
滋賀県大会では、この水月刀で桐葉は何本も投手の決め球をスタンドに運んできた。
「ふふ、そんなに派手に飛ぶと、空気が揺れるよ?」
鉢谷はグローブを構える素振りもしない。打球が飛んでくることは無い。そう確信しているように。
その通り、桐葉の水月刀は空を切った。とらえたと思われたバットの横を鉢谷のナックルがすり抜けていく。空気に任せる鉢谷のナックルは強烈な水月刀の回転による空気の渦によって、最後まで変化していたのだ。
「うわー、桐葉もあっちゅう間に追い込まれた。やりにくいピッチャーやな」
道河原が額に手を打つ。そこに滝音がぽつりと挟んだ。
「いや、まだ桐葉には業がある。うってつけの業が」
滝音は腕組みをしながら、戦況を見守る。桐葉は試しただけだ。追い込まれても次を準備している。
甲賀において、桐葉家とは国宝の刀さえも預かるほどの刀の名家である。様々な状況の中、刀によって瞬時に相手の命を絶つ。そのため、桐葉家は数多なる業を持つ。
「何すか、他の業て」
「一度、見ただろう? 天井から襲いくる敵を斬るための剣技だよ」
白烏がなるほど、と拳を打った。舞い散る木の葉を斬る剣技。あれは、このピッチャーに最適かもしれない。




