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甲賀忍者、甲子園へ行く2《甲子園編》  作者: 山城木緑
初戦 文武両道 福岡高校
41/91

14

 ……遅い。

 投じられた初球に犬走は走り出す足を止めた。

 犬走はずっと練習していた蛇沼のボールとは全く違うことに初球から気づいた。それでいて、予想よりもずっと揺れている。

 これは、投球じゃない。蝶だ。


「ストライッ!」


 ふわふわと宙を舞ったボールがミットの音すらたてずに真ん中へ収まった。走りながらボールに当てる犬走にとって、これだけボールが遅いと走り出すタイミングが掴めない。


 犬走への二球目。

 鉢谷は振りかぶらない。キャッチボールをする、いや、それよりもボールを投げようという意志が伝わってこない投げ方だ。宙にボールを乗せるとでも言おうか。

 やはり、犬走は歩幅を合わせられない。

 ヒッティングの確率が低い犬走は、自慢の神速をもってバットに当てるだけのバッティングをする。

 ただ、当てるだけではキャッチャー前にポトリと落ちるだけ。それでは、いくら神速といえどアウトだ。よって、走りながら当てる。強靭な足の力で三歩走りながら当てるのだが、この鉢谷の遅球では走るタイミングが合わないのだ。

 犬走は結局、二球目を当てにいくが空振り。三球目はタイミングが合わずに三球三振に倒れた。


「桐葉、予想よりずっと揺れてる。ベース手前でもどこにいくか分からない感じだ」


 ネクストバッターズサークルから打席に向かう桐葉へ犬走が声をかけた。


「……無論。犬走が当てられないほどならば、かなりであろう」


 初めて二番打者として桐葉が左打席に入った。メジャーではチーム最高の打者を二番に置くスタイルが確立しつつある。この甲賀高で一番の打者と言える桐葉二番という策もあながち間違いではない。

 桐葉がすっと右足を前に出して腰を落とす。バットのグリップを腰骨の位置にあて、右手だけでグリップエンドぎりぎりを掴んでいる。居合のような構えに甲子園が沸いた。既にこの桐葉のバッティングは高校野球ファンの間で話題になっているようだ。


 この構えにて目を閉じる桐葉に、鉢谷は汗を垂らした。


「すごい気迫だな。それでいて、緊迫感を纏う静寂。これが甲賀の桐葉家か。まともに戦えば斬られるのだろうね」


 そう呟いて鉢谷は不敵に笑った。

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