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──球審が両軍ベンチへ向かって肘を上げた。さあ、ついに来た。整列だ。
「っし! もうやるっきゃねえ。打順は気にすんな。一人一人、ボール良く見て打ち返す。白烏は何でもええから抑えろ。行くぞ、甲賀っ!」
おおおぉぉ!!
両軍が勢い良くベンチを飛び出す。アルプススタンドからの大きな拍手が甲子園を覆った。
「では、先攻甲賀高校、後攻福岡高校で始めます」
しゃあぁぁぁぁす!
しゃああぁぁっす!
最前列で副島と山﨑が握手を交わす。お互い、もう抽選会の際の笑顔はない。どちらも、ここからは勝敗を決するために戦うキャプテン同士だ。
マウンドにエースとは思えない華奢な身体の選手が登った。サードにつく山﨑が一声鉢谷に声をかけた。
「鉢谷、楽にな」
「……うん」
鉢谷は目を覆うほどの前髪を帽子にしまい、きゅっと帽子を被った。福岡県大会では見られなかった目つきをしている。山﨑はしばし立ち尽くした。
「山﨑……」
「……どうした?」
「良いくじを引いてくれたね」
鉢谷の眼差しが甲賀ベンチへ向けられている。
「どういう意味だ?」
「末端の僕が彼らに通用するのか。僕が野球をやろうと思ったのは、まさにこの試合をやるためだったよ」
また、よく分からない。首を捻ったが、鉢谷は珍しく笑った。
「何でもない。山﨑、勝つよ」
「おお。バックは任せろ」
試合開始を告げるサイレンが鳴り響く。打席後方で犬走がバットをだらんと下げ、独特の構えで鉢谷の投球を待った。
『この試合は実況伊藤と解説は縦浜高校元監督の渡部さんでお送りします。さあ、渡部さん、この福岡高校の鉢谷くんは珍しいナックルボーラーということですが……』
『そうですねえ。投球の全てがナックルという、珍しい投手ですね。甲賀高校打線が引き付けて揺れるボールを捉えられるか。鉢谷くん対甲賀打線が見物となりますね』
鉢谷はまっさらな白球を見つめた。人差し指を立てて風を確認する。なかなか強い風が、ホームベースまでの18.44mの間にふきつけている。
「さあ、甲賀のエリートさん。お手並み拝見だ」
ぽつりと鉢谷は呟いた。
『舞え、幻蝶』




