12
滝音には確信まではいかないが、読み上げられた橋じいのスタメンに少しの理解を示していた。それは、昨日のミーティングに起因している。
───伊香保がしたためたパワーポイントの資料が皆に配られた。
「事前に言って練習してたから、みんな充分承知だと思うけど、福岡高校に勝つにはこのピッチャー鉢谷くんの変則ナックルを打たないといけないわ」
伊香保の資料に福岡県大会のデータが記されている。
初戦から4-2、2-1、1-0、2-0、1-0、1-0……。チーム防御率は驚異の0.55。更なる驚異はエース鉢谷の防御率。0.00。三回戦からは全て鉢谷が先発、完封している。
加えて、データ分析を図る伊香保にとっての困りごとがある。伊香保の資料には投手から野手まで徹底的な配球分布やヒッティング率が記されるが、鉢谷の投球データは異色だった。
球種、ナックルのみ。
コースは低めが多いものの散らばっている。こんな投手は高校野球史上、一人もいなかったのだ。
対戦相手が決まってすぐに伊香保はナックルの対策が急務と告げ、甲賀ナインは対策に乗り出した。
「蛇沼、お前しかおらん」
ナックルとは違うが、蛇沼は滋賀県大会の一回戦で揺れるボールを投げた経験がある。甲賀は蛇沼をバッティングピッチャーとして、ここまで練習してきた。
「うおい、やっぱこんなヘロヘロ球は打てん。真っ直ぐ放れ、蛇沼!」
道河原はそう怒鳴るほどに、全く蛇沼のボールを打てなかった。ボールを捉える天才である桐葉も、器用な月掛も、蛇沼レベルですら対応に苦慮していた。
唯一兆しを見せたのが桔梗だ。
「あたし、こんくらいのゆっくりの方が打ちやすいかもー」
といいつつ、打ててはいないが、桔梗は蛇沼の揺れるボールを時々バットに当てていく。
そして滝音がピクリと反応したのが、蛇沼の一言だった。白烏が蛇沼のボールに見事に空振りした後、蛇沼に語りかけた場面があった。
「蛇沼ぁ。俺らは練習まだできるけど、お前は投げてばっかりで大丈夫か? 俺、こんなボール投げれへんけど、一応変わるで?」
「んーーー。ううん。僕はいいや。何て言えば良いか分かんないけど、くねくね曲がるボールは練習しなくても感覚で分かるかも」
蛇沼のその一言を橋じいが聞いていたかどうかは定かではないが、滝音は橋じいのスタメンに「あり」だと感じていた。




