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甲賀忍者、甲子園へ行く2《甲子園編》  作者: 山城木緑
初戦 文武両道 福岡高校
38/91

11

 ──8月14日。大会七日目。第一試合。


 一塁側 滋賀県代表 甲賀高校

 vs

 三塁側 福岡県代表 福岡高校


 天気は晴。

 第一試合は特権がある。新品の靴に足を入れるように、まっさらな黒土にスパイクを入れる。ふわりとスパイクが沈む。黒土が僅か、舞う。

 まだ温度が上がりきらない甲子園はキンと静まり、アルプス席にさわさわと慣れない観客を迎え入れる。バックスクリーン上の旗が揺れている。国旗、大会旗は一塁側になびいたと思えば、三塁側になびいたりと気まぐれだ。


「ふぉふぉふぉ、諸君! ここがベエスボオウルの聖地であるぞ」


 橋じいが広大な甲子園球場に両手を広げて天を仰いだ。

 蛇沼が隣の犬走に話しかけた。


「甲子園練習で一回来たのにね」


「ああ。でも、あの時、橋じいベンチの後ろで寝てたから……」


「……そだね」


 橋じいは広大なグラウンドを前に、大きく背を伸ばした。


「気持ちの良いもんじゃ」


 年寄りは朝に強い。おそらく第四試合だったならば、この元気はなかったろう。


「では、若人たちよ。いざ、決戦に向かわむ。今一度、先陣となる選手を読み上げまするぞ」


 皆が苦い顔をした。つい先程のこと、橋じいから読み上げられたスタメンは衝撃であった。副島やナインが否定したものの、時すでに遅し。橋じいはこのスタメンを提出してしまっていた。


「いざ、読み上げよう。一番、セエンタアァ、犬走くん」


「はい」


「二番、ショオウト、桐葉くん!」


 月掛の顔が曇る。甲賀高校のスタメンは今まであまり変わらなかった。中でも俊足の犬走と小技の利く月掛の一二番コンビは鉄板のはずだった。


1.センター 犬走和巳

2.ショート 桐葉刀貴

3.ライト 東雲桔梗

4.サード 蛇沼神

5.レフト 副島昌行

6.ファースト 道河原玄武

7.ピッチャー 白烏結人

8.キャッチャー 滝音鏡水

9.セカンド 月掛充

控え 藤田拓也


 このスタメンが発表された時、副島はさすがに橋じいへ詰め寄った。


「んな、あほな。橋じ……先生、俺らの野球見てへんのやから。俺が出したスタメンにせんとっ。さすがにあかんすわ!」


「副島くん。左様か。しかし、かたじけないことに、これで出してしまっておるぞ」


 おいおい……。さすがに皆が橋じいの暴挙に絶句していた。


「滝音、伊香保、再提出できるか調べてくれ」


 副島は怒りを押し殺すようにして、滝音に向いた。


「……いや、無理だろう。もう締切を過ぎてる」


「ほんなら、伊香保。ちょっと頼むだけ頼んできてくれや」


「いや、無理なものは無理さ」


 滝音が仕方なく席を立った伊香保を止めた。

 副島の焦りが分かる口振りに対して、滝音は静かに座っていた。

 副島はその態度にも腹が立つようで、周りのナインも滝音の静けさを残念がった。

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