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翌日以降、山﨑はナックルの練習に励んでいた。
確かに、鉢谷の言う通りかもしれない。プロ野球選手ならば高校生の投球は軽く打ち返すだろう。だが、意外とどうだろう。小学校低学年の子供が投げたら、それは打ちにくいかもしれない。慣れていないからだ。
鉢谷は野球をやったことはないだろう。それでも、鉢谷の投げた遅球は打ちにくいかもしれない。どこの高校も遅球を打つ練習などしないからだ。加えて、偶然かもしれないが、空気抵抗を受けて蝶のように舞うナックルを投げられれば、慣れている高校生など皆無ではないのか?
山﨑は何度も動画サイトでナックルの握りから投げ方までを研究した。
だが、投げられなかった。
どうしてだ? ちゃんと指を立てて投げ方もナックルボーラーと同じ角度で投げているのに……。
ふと、山﨑は校舎の三階、奥の窓を見上げた。少し、窓が開いている。一番奥の窓から誰かが本を読みながらこっちを見ていた。
「おーい、山﨑ぃ。フリーバッティングにしようぜー」
チームメートが背中に声をかけてくる。山﨑は振り向かず、後ろ手にその声を遮った。もう、俺らは三年になる。甲子園に、行きたい。なりふりなんか、構ってられない。
「すまん。ちょっとやっといてくれ」
チームメートにそう言い残し、山﨑は勢いよく校舎に駆け込んだ。
建てつけの悪い引き戸を勢いよく開け放つ。轟音に何事かと図書委員が振り向いた。
「はぁ……はあ……はぁ」
「図書室ってそんな音立てて、息切らしながら入ってくるとこじゃなかよ」
「……はぁ……はあ……悪い。許してくれ」
素直な山﨑に図書委員はきょとんと目を丸くした。山﨑はそのまま図書室の奥へと歩いていった。




