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「悔しいけど、お前の言いたいことは分かる。けど、そうしたって、対策なんてねえんだ。俺らの頭使う野球にも限界があるけんな。せめて並まで投手を引き上げんと……」
「……そのボール、貸してよ」
「え?」
「口で言ったって分からないだろう? だから、見せるよ」
山﨑は右手に握ったボールを見つめた。いったい何を見せるというのか。緩い弧を描いて鉢谷へボールが渡る。
「図書委員さん、ごめん。少しだけ窓開けさせてください。すぐに、済みます」
図書委員はあっさりと承諾し、窓を開け放った。全開になった窓から風が吹き込み、カーテンが荒波のように揺れる。
「本を必ず守るように。しっかり捕って」
風に鉢谷の髪がなびかれる。すっきりとした顔立ちは少年のようだ。山﨑は距離を取り、素手で構えた。鉢谷との距離は6メートル。
鉢谷はボールを見つめ、顎に手をあてている。「なるほど」と、小さく呟いた。
野球をやったことがないのを丸出しにしたフォームで鉢谷の右腕が上がる。
「この距離でも理論上は目に見える結果が出る」
そんなことを言えてしまうくらいに、投球動作が鈍い。ゆっくりと腕が振られた。何とも頼りない遅球がふわふわと宙を舞う。
は? なんだこりゃ?
拍子抜けする遅球に、山﨑はがっかりしながら両手で構えた。まるで幼稚園児のキャッチボールだ。ボールの縫い目がはっきりと見える。遅い。
山﨑は風に流れる方へ一歩移動し、また両手で構えた。ふと、ボールが揺れ、山﨑は今度は反対側へ一歩戻る。やっとこさ届いたと思ったボールは風に揺られ、左右にピクピクと揺れながら、すとんとお辞儀するように落ちた。
「あっ」
山﨑はその揺れに合わせられず、ボールは床で弾み、本棚の隅に当たった。
「あーー、ちょっと山﨑くんっ!」
図書委員が大事だと、駆け寄ってボールを押さえた。
「鉢谷くんも! ボール投げないで!」
「ごめんなさい」
山﨑は図書委員と鉢谷の会話をぼうっと聞いていた。
「ちょっと! ボーッと立ってないで、野球部ならあんな遅い球ちゃんと取ってよね」
図書委員がこめかみに血管を浮かせている。その図書委員をいなすようにして、山﨑は鉢谷に寄った。
「今のは……ナックルばい」




