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窓から見えるグラウンドでは、運動部の練習が始まっていた。野球部の面々もグラウンドの隅からネットを運び出し、キャッチボールの準備に入っているようだ。
「……ここから見えるけど、野球というスポーツはタイミングの取り合いなんでしょ?」
「あ? ああ、まあ、そう言えるかもしれん。で?」
「それなのに、君はさっき投球力学に誰にも打たれないストレート、変化球と身体のメカニズムという本を入荷してくれと言っていた。だから、笑ってしまったんだ。気に触ったなら、申し訳ない」
山﨑は、わざとらしく大きなため息をついた。
「いちいち癪に触る言い方ばい。野球知らんなら言うな。野球はストレートが早けりゃ打たれにくいし、変化球がキレれば打たれにくい。そんなもんたい」
鉢谷はこめかみに指をあてて考えるような仕草をした。
「野球……そんなに分からないけど、君やあそこで練習してる人が、仮にその本を読んで、タイミングの取り合いに勝てるの?」
「タイミングの取り合いって……野球ってのは、そんなんとちゃうぜ。速けりゃ速いほど打たれんとぜ。曲がれば曲がるほど打たれん」
鉢谷はあからさまにため息をついて、山﨑から目を背けた。
「……君、本当にこの福岡高校の生徒かい? 僕の質問に答えられてない。君やチームメートが相手にとってタイミングを取りにくいほどの速さや曲がりを習得できるのかい? 僕はそう聞いているんだ」
いちいち腹が立つ。これは確かに誰とも交われないだろう。帰宅部がお似合いだ。……そう感じた山﨑だったが、実のところ鉢谷の指摘にギクリと小さな針を刺されていた。
本を読み、研究をしたところで、球速が120キロ台から140キロ台後半まで上がるか? 指の角度や理論を研究して、手が出ないほどの変化球を投げられるのか?
答えはノーだろう。並以下のストレートと変化球を並に引き上げたところで、打者は慣れ親しんだ並の投球や、並を少し越えたくらいの投球には対応するのではないか?
おそらく、鉢谷はそう言いたいのだ。




