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「あいつ、あんま見らんと思ったら、こんなとこにおったっちゃね……」
山﨑が呟くと、図書委員はクスッと笑い、言った。
「運動部の人は知らんかもね。もうすぐ、珍しいもんが見れるとよ」
「珍しいもん?」
山﨑が首をひねると、他の図書委員が窓際に歩いていき、そっと窓を開けていく。
「本って、換気せんかったら傷むと。やけん、こうやって帰る前に少し換気するとよ」
「へー、知らんかった。これが珍しかことか?」
ふふん、と図書委員が笑った。
「ここからよ」
そう言って、図書委員は鉢谷の方へ手のひらを向けた。山﨑が鉢谷の方へ首を向けると、そこには確かに見たことのない光景が広がっていた。
開け放たれた窓から、ひらひらと蝶が舞い込んできた。2匹の蝶は吸い寄せられるように上下左右と舞ったあと、すうっと鉢谷の指先にとまったのだ。
鉢谷は変わらずに右手で本のページを捲っている。本を支える左手の中指と薬指に色鮮やかな蝶がとまり、ゆっくりと羽を上下に揺らしている。
「……な、なんで?」
山﨑は鉢谷を見ながら図書委員に訊ねた。
「あたしたちも分かんない。でも、こんな安らぐ光景、なかなかなかろ? やけん、あたしたちは敢えて訊ねんとよ」
美しいな。山﨑はしばし鉢谷にみとれていた。




